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ホーム指導者のページ再録:月刊「母子保健」より「咀しゃく機能の発達から離乳食を考える」

インタビュー 咀しゃく機能の発達から離乳食を考える

昭和大学歯学部口腔衛生学教室教授 歯学博士
「授乳・離乳の支援ガイド策定に関する研究会」委員 向井美惠


『改定 離乳の基本』の策定から11年、2007年3月に新たに発表された「授乳・離乳の支援ガイド」は、より子育ての現実に即した柔軟な支援のあり方を示す内容となりました。加えて、新たな知見に基づく変更のポイントがいくつかあり、中でも離乳食の進め方に「咀しゃく機能の発達」の視点が明示されたことが注目されています。 そこで、「授乳・離乳の支援ガイド策定に関する研究会」委員のひとりで、昭和大学歯学部口腔衛生学教室教授で歯学博士の向井美惠先生に解説をお願いしました。
月刊母子保健2007年7月号より再掲


向井美惠先生

離乳食の進め方に口腔機能発達の視点を

——離乳食を考える際は栄養面だけでなく、口腔発達や咀しゃく機能の発達についても考えなければならないことは、まだあまり知られていません。最近の研究の成果ですか。
向井 いいえ、11年前の『改定 離乳の基本』でも、「調理形態」を示した部分に口腔機能の発達の視点が盛り込まれています。たとえば、「舌でつぶせる」とか「歯茎でつぶせる」「歯茎でめる」とあるのは口腔機能の発達を示す言葉で、その発達に即した調理形態にしてくださいということ。ただ、離乳初期の調理形態が「ドロドロ状」とあるのは、あまり美味しそうじゃない(笑)。それで今回、「なめらかにすりつぶした状態」に表現を変更しました。さらに、機能発達を含めた食べ方についても目安を示そうということで「食べ方の目安」という項目を入れ、たとえば7〜8か月頃の赤ちゃんは「1日2回食で食事のリズムをつける」「いろいろな味や舌触りを楽しめるように食品の種類を増やす」などの記述を加えてあります。また、12〜18か月頃は「1日3回の食事のリズムを大切に生活リズムを整える」と同時に、前歯が生えてくる時期なので、手づかみ食べをさせましょうと加えました。これは食行動全体を自立支援を意識した「食べ方の目安」としたもので、従来の『改定 離乳の基本』と大きく異なる点です。

離乳食を段階で区切らない

——ほかに変更点はありますか。
向井 離乳の初期、中期、後期、完了期という段階的な分け方をなくし、目安となる月齢だけを示しました。赤ちゃんの発達や離乳食の進み方を段階で区分するのではなく、一連の流れで捉えようということで、これも非常に大きな点です。

——離乳の開始時期についてはどうですか。
向井 僕は、離乳の開始は6か月後半から7か月くらいが適切だと考えています。かつては早すぎる離乳開始の傾向があり、昭和60年には生後3〜4か月で開始する赤ちゃんが30%以上もいたのですが、平成7年に『改定 離乳の基本』が出てから5か月が中心になり、「平成17年度乳幼児栄養調査結果」では5〜6か月となって6か月が増えました。この流れで6か月を中心にしたいとの思いがあって、あまり時期や段階にこだわらない記述になっています。完了の時期も1歳から1歳半頃まで個人差があるので、やはり目安の月齢だけがいいのかと思います。

——先生が、離乳の開始を6か月頃が適当だとする理由を教えてください。離乳開始は遅いほうがいいのですか。
向井 早過ぎないほうがいいということで、遅いほうがいいのではありません。赤ちゃんは生まれてすぐに哺乳反射という、意思とは無関係の反射行動でおっぱいを飲み始めます。これは原始反射なので4〜5か月頃から少しずつ薄れ、6〜7か月頃には消えていきます。その頃から食べることが自分の意思行動になるわけで、この時期に離乳を開始するのが母子双方にとって、もっとも負担が少ないのです。哺乳反射が残っていると赤ちゃんは自分の意思で食べられませんから、おっぱいを飲むときの口の動きで食べ物を出してしまう。それでお母さんが悩むことにもなるので、育児支援の意味からも、その時期をなるべく短くしたいのです。
 また今回は、離乳だけでなく授乳の支援も盛り込まれたので、なぜ授乳から離乳に移行するのかがわかる記述が入っています。さらに、「咀しゃく機能の発達の目安について」という表を入れて、赤ちゃんの機能発達に合わせた食べさせ方のポイントを載せています。

——それが「支援のポイント」という部分ですね。
向井 ええ。たとえば、7〜8か月頃は「口の前のほうを使って食べ物を取り込み、舌と上あごでつぶしていく動きを覚える」時期ですから、「平らなスプーンを下唇に乗せて上唇が閉じるのを待ってください。それには舌でつぶせる硬さのものをあげてください。つぶした食べ物をひとまとめにする動きを覚え始めるので、飲み込みやすいようにとろみで工夫してください」というように、機能発達を促すポイントをなるべく具体的に示しています。  これらは、赤ちゃんを自立させるためにどんな援助をすればいいのかという意図で書かれたもので、さらに同じ表に歯の生え方の平均的な時期も入れて、支援のポイントと照らし合わせられるようにしてあります。離乳食とは、赤ちゃんの食べ方が発達する過程に合わせた支援をすることですから、そのために調理形態はこう、食具にはこう移行させるということを合わせて示せば、支援に迷うことが少ないだろうと考えたのです。
 というのも、授乳や離乳食については多くのお母さんが不安に思っていて、とくに出産直後には哺乳への不安を、5か月頃から1歳過ぎまでは離乳食について不安を感じることが多いとわかったからです。それでどうすればいいのかがわかるよう、赤ちゃんへのサポートの仕方とその重要性を「離乳食の進め方の目安」と「咀しゃく機能の発達の目安」という表にして示してあります。

——離乳食は親が赤ちゃんに食べさせるものだと考えていましたが、赤ちゃんが自分で食べられるようになるまでの発達の過程を、親がサポートすることなのですね。
向井 そうそう。離乳食の基本的な考え方は、食べさせて大きくするのではなく、赤ちゃんの食べる動きを引き出して自立させること。そのためには、どんな食べさせ方をして、どうサポートすればいいのかという視点を持つことが大切で、オーバーケアにならないことも大変に重要です。

目的は赤ちゃんの発達を引き出し自立させること

——「手づかみ食べ」の重要性は新たに加えられた項目で、大変強調されていますね。どんな目的があるのでしょうか?
向井 「自分で食べる」という、自立を促す意味があります。最初は口に詰め込み過ぎたり、食べこぼしをしますが、そうしながら赤ちゃんは自分のひと口量を覚えます。
 いまは食べることに意欲のない子や、食べ物に執着のない子の問題が指摘されますが、食べ物を自分の手で口に運ぶことは動物が生きるための基本です。目で食べ物の位置や大きさを確かめ、それを手でつかんで硬さや温度を知る。どのくらいの力を加えると潰れるのかということも体験できる。そして、食べ物を口に運ぶには指しゃぶりやおもちゃで遊んだ経験が生きる。だから、たくさん遊ばせてください。少し大きく切った野菜などを手に持たせてあげると、自分のひと口量を調節することを覚えます。それが窒息を防ぐことにつながります…など、手づかみ食べをさせることの意味や目的に加えて、その際に赤ちゃんをどうサポートすればいいのかを書き込んであります。これも従来にない点です。

——適切な時期に食具を与えることも、発達を促すために重要ですか。
向井 ええ。今はスプーンを与える時期が早すぎます。手と口の協調運動がうまくいかないのに道具を与えても、うまくいくはずがないんです。だから、まずは手づかみ食べを大いにさせ、それが上手になってから食具を与える。大まかな目安として3〜4歳頃に、スプーンやフォークも上手になって、いろいろなものが食べられるようになっていればいい。それから6歳頃にかけてお箸が使えるようになることを目標に、子どもの自立的な食をサポートしていくのだと考えればいいと思います。

成長曲線に照らして発育をチェックする

——赤ちゃんの発達を中心に据えて、それをサポートすることが大事だとすると、発達の個人差をどう見極め、対応するかが課題になりますね。
向井 それで、「咀しゃく機能の発達の目安」という表には、たとえば離乳食の開始時期として、「口に入ったものを嚥下反射が出る位置まで送ることを覚える」など、赤ちゃんの口腔機能の発達のようすを入れましたので、そうした口の動きを確かめながら、こんなものを食べさせてみようと考えていただけばいいと思います。と同時に、常に成長曲線と照らし合わせて、小さい赤ちゃんは小さいなりに、大きな赤ちゃんは大きいなりに、成長曲線のカーブに沿って発育していることを確認すること。これも今回の「支援ガイド」の大きなポイントのひとつで、成長曲線に沿って発育しているかどうかが、離乳食の進め方が適切かどうかを判断する重要な目安だと考えていただきたいと思っています。

——発育に問題がなければ、「完了期」についても幅広く考えていいのでしょうか。
向井 ええ。離乳食の完了もそうですが、授乳についても「卒乳」ということは、今回はひと言も出てきません。たしかに、おっぱいは自然の流れで2歳くらいまでにやめたほうがいいだろう。しかし、その後も飲んでいてはダメなのかといえばそうでもないだろうと。育児の、とくに食に関しては、危険なことや明らかにからだに害がある食行動は別として、「あれがダメ」「これがダメ」だと規制する必要はないという考え方が基本にあると思っています。食事は親が子どもにしつけをする場ではなく、目的はからだと心に栄養を与えること。それなのに食べることを強制されたり、「汚してはダメ」「あれをしちゃダメ」と親にうるさく言われ続ければ、子どもにとって大きなストレスになってしまうでしょう。

——そうしたストレスから、食への意欲を失う場合もありますね。
向井 もうひとつ大事なことはね、おなかが空く前に先回りして食べさせてしまうから空腹感がないということ。加えて運動量も少ないから、余計に空腹感がない。それでもお母さんは、食べる量が少ないんじゃないか、栄養が足りないんじゃないかと不安を感じて先回りして食べさせてしまう。それで、いっそう食欲をなくす…。そういう悪いサイクルに陥らないようにしたいのです。手づかみで自分で食べることは、自分で意欲を持って食べるという自立的な行動の第一歩なんですね。

——離乳食を子どもの自立の過程のひとつだと考えて長い目で見守り、サポートすればいいということですね。
向井 「食」とは楽しく美味しく味わって良い気持ちになり、からだと心の栄養を自分の力で得ること。そのスタートが離乳食であり幼児食です。その自立をどうサポートするのか、親ごさんや、親ごさんを支援する母子保健関係者に考えていただければと思います。

——ありがとうございました。

表:「咀しゃく機能の発達の目安」