令和3年度 受賞者所感

群馬県・歯科医師 木下樹(きのした たつき)群馬県立小児医療センター

 このたびは栄誉ある母子保健奨励賞を賜り、身に余る光栄に存じます。これもひとえに諸先輩方をはじめ、歯科医師会や医師会、病院職員の皆様など多くの方々のご支援の賜物と深く感謝申し上げます。

 私は群馬県立小児医療センターに、北関東で初の障害児三次歯科医療のための診療科を立ち上げ、「診療を絶対に断らない」という信念のもと診療を行ってきました。身体抑制下での治療が中心だった群馬県における障害児歯科診療からの脱却を目指し、全身麻酔下歯科治療を安全に実施できる環境の整備と、体制の構築を目指してきました。

 診療を始めてから、周囲には障害を有する患者さんが通える歯科医療機関が少ないことを感じ、離乳食の進め方や、具体的な虫歯予防法など、保護者の子育て中の不安を解消する取り組みが必要であると考えました。そこで、治療だけでなく予防の視点から、口腔衛生指導や食育を通して、小児期の口腔機能発達を包括的に見守る母子歯科保健の仕組み作りに取り組みました。院内では摂食嚥下専門外来「もぐもぐ外来」の開設や、子育て支援セミナーを開催しました。また、疾患別の保護者の会においては、疾患や障害特性を考慮した母子歯科保健指導を実施しました。院外では、さまざまな職種の担当者等へ、歯科疾患予防や食育、生活支援までを視野に入れた母子歯科保健の啓発に関する講演を行ってきました。そのほか、歯科の視点から被虐待児の早期発見、早期保護の必要性を広める活動にも積極的に取り組みました。

 これらのことは、これまでの活動が私にとって志を同じくする多くの職種の方々と知り合う大変貴重な機会であったと同時に、これまでの取り組みを歯科医師のみならず、子育て支援に関わるすべての方々へ積極的に発信する必要性を感じる機会でもありました。

 今回の受賞を励みとし、引き続き小児や障害児に関するさまざまな問題を歯科の視点で捉え、母子保健活動に微力ながら貢献していきたいと思います。