令和3年度 受賞者所感

高知県・医師 永井立平(ながい りゅうへい)高知医療センター

 私はこれまで産婦人科分野の中でも産科に特化して診療に取り組んでまいりましたが、図らずも、今回、私の取り組みをこのような形で評価していただき、栄えある母子保健奨励賞を賜りましたことはこの上ない喜びであり、深く感謝申し上げます。

 私は、正しい診断こそが母児の予後改善につながると信じ出生前診断の普及に力を注いでまいりました。その過程で、まだ見ぬわが子の聞いたこともない疾患が分かった妊婦やご家族が、戸惑いながらも治療方針の選択を迫られることがいかに苦しいことか、そして苦難を乗り越え出産した先はゴールではなくスタートであり、その先の未来を想い描くのがどんなに難しいことか、を目の当たりにしてきました。単純に病気を治すだけでは解決しない、医療だけでは対応できない難しい問題が山積していることを、関係させていただいた多くの先天性疾患を持つ児とご家族から学ばせていただきました。そして、出生前診断は、出生後により良い子育てを行える環境が整ってはじめて意味を持つことに気づかされました。

 すべての妊婦とその家族が安全に妊娠・出産し、児がより良いスタートを切ること、そしてすべての家族と子がその人らしくそれぞれの人生を歩むことができる地域社会を実現することこそが、真の母子保健の目的であると強く信じます。疾患を持つ子どもや家族が過ごしやすい環境は、疾患を持たない人々にとってもきっと過ごしやすい環境に違いありません。この目的はまだまだ達成できていないと感じます。一産科医にできることに限りはありますが、今回の栄誉を励みとし、これからもなお一層の研鑽を重ねいままでの活動に引き続き精進してまいりたいと存じます。現在の熱い想いを忘れずに、いままで学んだことを社会に発信し続け、母子保健の輪を拡げてまいる所存です。