病気・予防接種
Q. 妊娠中の検査結果や発達から先天性風しん症候群ではないかと不安です。 (2013.4)
- (妊娠週数・月齢)11か月
先天性風しん症候群について質問します。妊娠初期に調べた風しんの抗体価は256でしたが、主治医の先生は「とくに問題ないね」と再検査をせず、出産を迎えました(40週6日で出産、出生体重2,800g、身長48cmでした)。しかし最近、11か月になってもはいはいをしない、つかまり立ちもやっと最近(11か月)になって始めた、まだしゃべらないなど発達に気がかりを感じて、先天性風しん症候群ではないかと不安を感じています。先天性風しん症候群とはどのような病気か、詳しく教えてください。また、私自身が麻しんの予防接種を1回しか受けていないのでMRを打とうと思っていますが、もしも先天性風しん症候群を疑われたときの検査のためにワクチン接種はしないほうがいいのでしょうか。
回答者: 多田裕先生
いま風しんが広く流行して妊婦さんや赤ちゃんへの影響が心配されていますので、まず風しんとはどんな病気なのか、説明しましよう。
風しんは子どもに多い病気で、麻しんとよく似た、発熱を伴う発疹性の感染症です。両者の違いを述べますと、麻しんは目やに・鼻水・せきなどの「カタル症状」を伴うことが多く、高熱が出た後にいったん下がり、プツプツとした細かい発疹が顔から全身に広がります。発疹が出現する頃に再び熱が上がり、口中に特有の斑点が認められることが特徴的です。
一方、風しんは麻しんよりも軽く、発熱を伴う場合も麻しんほど高熱になることはまれです。顔やからだに細かい発疹がパラパラと広がり、耳のうしろ(後頭部)にあるリンパ腺が腫れることが特徴です。合併症もなく予後も良いので、子どもにとっては軽い病気だといえるでしょう。
麻しんも風しんももともとは子どもの頃に感染することが多かった病気で、自然感染すると一生にわたる免疫が得られます。また、以前は予防接種をすると長期間にわたる免疫が得られると考えられていました。母体の免疫は胎盤を通して胎児に移行するため、生後半年から1年くらいまでの赤ちゃんは麻しんや風しんにかかることが少なく、予防接種をしても免疫が得られない場合が多いので、麻しんと風しんの混合ワクチン(MRワクチン)は1歳を過ぎてから打つことになっています。
しかし、実際には予防接種をしても免疫がつかない人もおり、また、たとえ免疫が得られても年月が経つにつれて低下することがわかってきました。以前は感染した子どもと接する機会が多く抗体が再上昇する機会も多かったのだと考えられます。とくに麻しんは免疫が下がった人が多く、大人になって感染する人が多く出たため、いまは小学校入学前にMRワクチンを追加接種しています。
風しんのワクチンは麻しんに比べて効果が長続きするようですが、万全ではありませんし、予防接種のルールが変更されるなかで未接種の人、とくに成人男性に多く残ったため、今回の流行につながったものと考えられます。
風しんで問題となるのは、免疫のない妊婦さんが妊娠初期に感染すると胎児に感染が及び、重篤な影響を及ぼす場合があることです。これが先天性風しん症候群で、先天性心疾患、白内障、難聴が三大症状ですが、低出生体重、血液異常などがみられることもあります。こうした被害を防ぐにはワクチンで感染を防ぐことが重要ですが、風しんのワクチンは生ワクチンなので妊娠中には接種することができません。免疫がない、あるいは抗体価が低い(16倍以下)妊婦さんは手洗い・うがいをよくし、無用な外出や人混みを避けるなど感染のリスクを減らすことが予防につながります。
こうした風しんのリスクを知るため、妊婦健診では血液検査で風しん抗体(IgG抗体)の有無を調べています。検査は血清を倍々に薄めていく方法で調べられ、その倍数で抗体の有無を判断し、数値が8倍未満だと「陰性」だと判断されます。陰性では感染のリスクを減らすことが重要ですし、512倍以上の高い値が出たときには最近の感染が疑われます。そのため、風しんの抗体値が高い場合や風しんの症状があったり周囲に感染者がいたなど感染を疑わせる状況があれば、再検査をして「IgM抗体」について調べます。この抗体は感染後1週間でピークを迎え、4〜5週間後に陰性に転ずるので、IgM抗体が検出されるかを見ることで、最近の感染かどうかの手がかりになるからです。また、再検査でIgG抗体の値が上昇していたり逆に低下していた場合には最近の感染を考え、抗体の値が変わらなければ以前からの免疫の抗体と考えます。
さて、ご相談のケースについて考えてみましょう。たしかに256倍はやや高い値で、再検査することも多いのですが、主治医は必ず再検査しなければならない程の高い値でもないとして、他のさまざまな状況から再検査の必要はないと判断したものと考えます。
赤ちゃんの発育については、やや小柄ではあっても標準体重近くで生まれ、生後11か月ではいはいはしないが、つかまり立ちはするとのこと。つかまり立ちができるのは寝返りやおすわりが達成できた後のことなので、大きな遅れはないといっていいでしょう。
また、先天性風しん症候群の三大症状である心疾患や白内障について触れられていないことから、これらの疾患はないものと推察します。というのも、乳児健診や予防接種で小児科医の診察を受けたことがあれば、これらの疾患が見逃されることはまずないからです。難聴についてはあとで気づかれることもありますが、ご両親の呼びかけに反応したり、背後で音の出るおもちゃを鳴らして振り向くなら、まず心配ないと考えていいでしょう。
こうしたことから、先天性風しん症候群の可能性はまずないと考えます。しかし、不安なまま子育てをするよりは、まずはかかりつけの小児科医に心配な点を率直に相談し、必要ならお子さんの風しん抗体価などの検査をしてもらうと安心だと思います。
お母さんの予防接種は検査には影響しません。風しんはすでに抗体があるので不要ですが、麻しんについては抗体価を調べるかワクチンを接種するとよいと思います。抗体がある場合にワクチンを接種しても副作用の心配はないのでMRの接種でも構いません。