病気・予防接種
Q. 5歳。B型肝炎は皮膚の状態で感染のリスクが高まりますか。予防接種は必要でしょうか。 (2013.10)
- (妊娠週数・月齢)5歳
B型肝炎の予防接種の必要性について質問します。母親の私が妊娠中のB型肝炎の検査で陰性だったこともあり、5歳の息子はワクチンを接種していません。海外では必ず受ける予防接種のひとつだとも聞く一方、B型肝炎は血液感染の病気で日常生活での感染リスクは低いとも聞くので、接種をすべきどうか迷っています。 ひとつ気になっているのが、皮膚を掻き壊したような傷があって皮膚のバリアが壊れたような状態のとき、プールや公衆浴場などで傷口から感染する可能性があるのでしょうか?
回答者: 多田裕先生
予防接種の必要性について考える前に、B型肝炎とはどういう病気かを簡単に説明しましょう。
B型肝炎はウイルス性の肝炎で、血液や体液を介してウイルスに感染することで発症します。感染力の強いウイルスですが、皮膚の表面に付着しても体内に入らない限り感染は起こりません。たとえば、手にウイルスがついてもすぐに洗い流せば感染しませんが、傷口などからウイルスが体内に侵入すると感染することがあります。
感染すると肝臓が障害を受け、黄疸が出たり重い場合には劇症肝炎になったりすることがありますが、症状が出ない例もあり、年長児や大人では通常一過性の感染で治るとHBs抗体が陽性になります。
しかし、子どもの頃や免疫力が落ちているときに感染すると、ウイルスが体内にすみついてしまうことがあります。そういう方たちを「キャリア」と呼んでいます。キャリアの場合は一生症状が出ないことも多いのですが、慢性肝炎を発症し、進行すると肝硬変や肝臓がんになることがあるので、定期的な検査が必要です。
以前は輸血や注射針の使い回しによって感染するケースが多かったのですが、現在では、輸血用血液はすべてB型肝炎ウイルスの混入がないことを確認していますし、注射針は使い捨てのため、新たに感染する機会は大幅に減っています。とはいえ、B型肝炎の患者やキャリアの方たちはいるので、医療関係者など感染のリスクがある場合は予防のために必ずワクチンを接種しています。
また、母親がB型肝炎ウイルスを多量に保持している場合(HBs抗原、HBe抗原ともに陽性の場合)には、一部の赤ちゃんは胎内で、多くは出生時に感染してキャリアとなります。そのため、妊娠中の血液検査でこのウイルスの有無を調べて「陽性」だったときには、赤ちゃんが生まれるとすぐにB型肝炎用ガンマグロブリン注射(HBIG)を打つとともにワクチン接種をして、赤ちゃんがウイルスに感染するのを予防しています。
このような努力が続けられた結果、国内の感染者は減少してきましたが、その一方で、経済や社会活動が急速にグローバル化しているので、いつ感染の機会があるかわかりません。このため、世界中の多くの国でB型肝炎ワクチンは必ず接種すべきものとされており、安全性も確保されています。
さて、ご質問の内容について考えてみましょう。相談者は妊娠中のB型肝炎検査で陰性だったとのこと。家族などお子さんと身近に接する人たちのなかに患者やキャリアの人がいなければ、慌てて予防接種をしなければならないというものではないでしょう。
しかし、前述したように感染のリスクはゼロではありませんし、ワクチンの安全性も高いことを考えると、将来のことを考えて予防接種を受けることをお勧めします。ただ、残念ながら日本ではまだ「任意接種」のために費用がかかりますし、すでにこのウイルスの抗原や抗体をもっていればワクチンは不要です。父母が陰性の場合、その子どもが感染している可能性は低いのですが、まずB型肝炎の抗原と抗体の有無を調べて、どちらも陰性だったときに予防注射を受けるのもよいと思います。
それから、ご質問にある「皮膚のバリアが壊れた状態のとき」についてですが、冒頭で述べたように、確かに感染のリスクが高まる可能性があります。しかし、公衆浴場やプールなどにキャリアの人がいても、薄まってしまうので感染する危険は少ないでしょう。ただし、もしもキャリアだとわかっている人に噛まれて血が出たとか、傷口に血液や涙、唾液、尿、体液などが付着した場合には、すぐに水で洗い流し、病院でHBIGを注射してもらってください。
以上のことを参考に、かかりつけの医師と相談して予防接種の必要性や時期を決めてください。