歯とお口のケア
Q. 生後2か月で前歯が2本。むし歯が心配です。 (2020.10)
- （妊娠週数・月齢）2か月
娘は生後2か月にもかかわらず、もう下の前歯が2本生えています。まだ母乳しか口にしていませんが、歯が生え始めたときから、むし歯菌に感染する危険があるというのは本当でしょうか？ 歯が生え始めるのが早いと、将来むし歯になるリスクが高くなるのでしょうか？ どんなことに気をつけていればよいのでしょうか？ 早く歯が生えたことでのデメリットがないかと心配です。
回答者: 井上美津子先生
生後2か月で歯が生えてきているのは、たしかにちょっと早めですね。むし歯がご心配なようですが、乳歯が生えていても母乳だけのうちはむし歯のリスクはほとんどありません。
乳歯の生える時期については、日本小児歯科学会から最近のデータが公表されています。それによると、最初に生える乳歯は下顎乳中切歯（下のまん中の歯）で、標準的な生える時期は男児で5～9か月、女児で6～9か月と報告されています。
また、出生時にすでに生えていたり生後4週までに生えてくる歯を“先天歯”といい、1,000人に1人くらいの割合でみられます。先天歯は、哺乳の際に舌を動かすと舌の先端や舌下部が歯で傷ついて潰瘍ができやすく、痛みで哺乳障害が起こりやすいものです。月齢が上がると下顎の成長により舌が口の中に収まりやすくなり、また哺乳時の口の動きも変わってくるので、歯が生えても問題は少なくなってきます。
2か月で歯が生えてきているということですと、たしかに早めに生えてきていると思いますが、「むし歯が心配」ということですので、哺乳などの問題はなさそうですね。万一、舌が傷ついて母乳の飲みが悪くなるようなことがありましたら、歯科医（できれば小児歯科医）に相談してください。
早く生えてきた歯がとくにむし歯になりやすいということはありませんが、先天歯などの早期萌出歯には、時に形成不全（歯の構造が不完全で、茶色がかっていたり表面がザラザラしている）が見られることがあります。その場合も、食生活や口腔ケアに気をつければむし歯予防は可能ですので、かかりつけ歯科などで健診や相談ができるようにしておくと安心ですね。
「むし歯菌」は生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には存在せず、乳幼児期に周囲の大人たちの口の中の菌が“唾液”を介して感染（伝播、定着）するといわれています。むし歯菌は歯の表面に付着する性質があるため、歯が生えないうちは口の中に入ってきても（伝播）、住み着くこと（定着）ができないので、むし歯のリスクはありません。同時に、むし歯菌が歯の表面に住み着くためには、砂糖の存在が必要です。むし歯菌は、砂糖を栄養源として利用して酸を作るばかりでなく、粘着性の高い物質を作るので菌が歯に付着して住み着きやすくなります。このようにむし歯菌の定着が起こると、むし歯のリスクが出てきます。母乳や離乳食中心の食生活で、砂糖を含む飲食物をとらないうちは、むし歯のリスクもほとんどないと考えられます。また、むし歯菌の子どもへの伝播のリスクを少なくするためには、むし歯治療や口腔ケアをしっかり行って家族の口の中の菌を少なくしておくことや、食べ物の噛み与え、スプーンや歯ブラシの共用などを避けることが大切です。
砂糖を含むものをとらないうちはむし歯のリスクが少ないとはいえ、早めに歯が生えてきた子どもには、やはり早い時期からのお口のケアも必要です。まずは顔やお口の周りを手でしっかり触ってあげて、触られるのに慣れてもらいます。指で唇や口の中を触るのに慣れたら、ガーゼでお口の中を拭うようにしていきます。前歯だけのうちはガーゼだけでも大丈夫ですが、奥歯が生えてきたら歯ブラシによる清掃が必要になりますので、前歯が生え揃ってきたら歯ブラシにも徐々に慣らしていきましょう。はじめは食後にこだわらず、子どもの機嫌のよいときにみがいてあげるといいでしょう。乳歯の奥歯が生えてきたら、寝る前の歯みがきを習慣化していきましょう。
むし歯予防のためには、規律性のある食生活と糖分の多いおやつや飲み物を控えることが大切ですが、乳幼児期は飲み物のとり方にも注意が必要です。ジュースやイオン飲料などは糖分が多いだけでなく“酸性”です。酸性の飲み物を哺乳びんで与えたり、コップを使えるようになっても水代わりに頻繁に与えたりしていると、飲み物の酸で歯が溶かされてしまうことがありますので、気をつけましょう。また、上の前歯が生え揃ったら、寝る直前の飲食は避けたいですね。睡眠中は唾液の分泌が低下するため、飲食物が口の中に残りやすくなります。
歯が早く生えたというのも子どもの個性の一つと捉えて、適切な対応をしていけば、あまり心配はいらないと思います。