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友だち・遊び・テレビ

Q. 4歳の息子が特定の友だちに意地悪を繰り返し、注意してもやめません。 (2015.6)

  • (妊娠週数・月齢)4歳

4歳の息子の、特定の友だちへの意地悪に悩んでいます。2歳頃から始まり、その都度やめるよう話していますが、成長するにつれエスカレートしています。言葉によるもの、力によるものなどさまざまです。幼稚園では一度先生に叱られたこともあって抑えているようですが、園以外でその子と遊ぶと意地悪をします。なぜやったかと尋ねても「やりたかった」の一点張り。最近は目にあまるので、帰宅後落ち着いた息子に「あなたはとても意地悪な子だと思われているよ。意地悪な子とはもう誰も一緒に遊んでくれないと思うよ」とお灸を据えたところ、ショックだったようで泣いていました。息子には「やめて」と言われたらすぐにやめるよう何度も言い聞かせてきましたが、私が止めてもすぐにはやめません。友だちは心やさしく、意地悪をされても息子を誘ってくれます。強引な息子に、どうしたら意地悪をやめさせられるでしょうか?

回答者: 汐見稔幸先生

 たぶん、きっかけは偶然だったのだと思いますが、息子さんはあるとき、自分の感性に合わない子を見つけたのでしょうね。それからことあるごとにちょっかいを出すようになった……。

 人間の心のなかには、清いものにあこがれる共感的な心性と、他者を支配したり攻撃したりしようとする攻撃的心性が、未分化に同居しています。赤ちゃんのときからそうですが、大人になってもこの2つの心性があります。

 普段、攻撃的な心性のほうは心の奥に隠れているのですが、何か怒りとか大きな不満などネガティブな感情が広がると、隠れていた攻撃的心性が現れてきて、他人に攻撃的になります。口汚くののしったり、けんかをしたり、暴力を振るったり……それが政治の世界に入りこむと「戦争」という名の人殺しをするまでになります。どうして戦争という仲間殺しを「人間」という動物だけがしてきたかというと、人間にはたぐいまれな攻撃的な心性が誰にも隠れているから、としか説明できません。

 したがって、人を育てるというのは、誰の心にもある攻撃的な心性ができるだけ出てこないようにするために、もう一方の共感的心性に活躍の場をたくさん提供するということが基本になります。つまり、共感的心性のスイッチを脳のなかでたくさん入れていき、他方で攻撃性のスイッチを別のところにつなげて、それをポジティブな別のエネルギーに転化させるようにするということです。

 赤ちゃんを育てるときに泣いても叱らずに世話をするのは、共感のスイッチを入れるためですし、攻撃のスイッチが少しずつ入ってきたら、その攻撃性をかけっこや相撲などの遊びやスポーツの方向に向けたり、ごっこ遊びで悪者をやっつけるようなエネルギーにしたりして、他者への攻撃に向かわないようにするのです。

 どこの国にも昔話があって、そこに正義の味方と悪者とが典型的な形で出てくるのは、子どもの心のなかにある共感的心性と攻撃的心性に、ある形を与えるためです。そして、最後には正義の味方(王子様、長者、桃太郎や金太郎など)が勝つのは、人のなかにある攻撃的な心性(鬼とか魔女、山姥などが形象)よりも共感的な心性のほうが大事で、それに勝たせることで人は幸せになるということを子どもに悟らせるためです。

 その意味で、ご相談のお子さんは正直に攻撃的な心性を出す相手を見つけて、その子にあれやこれやのちょっかいを、おそらく無意識にしてしまっているのだと思います。何か合わないものが、その友だちにはあるのでしょうね。たぶん、本人に聞いてもなぜかはわからないのだと思います。やりたいからやっているだけ、ということになります。心の深いところにある心性が感じているわけですから。

 でも、そういう行為を頭から批判して「おまえはいけない子だ!」と責めると、子どもは十分な自覚のない行為を責められるわけですから、あまり納得できないままに人格が否定だけされることになります。すると、自信のない子に育つ可能性が高くなります。

 適度に叱ることはあってもいいのですが、叱りすぎないことが大事です。できれば、友だちに攻撃的になっているときは、引き離して、「またやってるね」と笑ってやるくらいのかかわりが、こういう場合はいいと思います。「ほんとうに好きね」と、その子の行動の癖のように扱い、それを笑ってやる。笑いながら、「それはいけないことだよ」と引き離して伝えていく、ということです。

 そういうかかわりをしながら、他方で、攻撃的心性にポジティブな形を与える遊びやスポーツをもっとさせてやり、さらに、勧善懲悪的なストーリーになっている昔話や絵本、幼年童話などをたくさん聞かせてあげてください。おそらく、5歳頃になれば、いままでとはガラッと変わった対応ができるようになるはずです。自我が育ってきて、共感的な心性がどんどん前に出ることができる心になるからです。

 繰り返しますが、気なるからと責めてばかりいると、共感されることで入るはずの共感スイッチがあまり入らないため、こうしたことが長く続いてしまうことになります。共感されないと共感の心性は働き出しませんし、共感的心性こそが攻撃的心性を隠す働きをするのですから。