妊娠期に知っておきたい感染症と予防接種情報
おなかの赤ちゃんに影響を与える感染症があります
ウイルスや細菌などの微生物(病原体)が原因となって発症する病気を「感染症」といいます。人から人へうつるものもありますが、ペットや家畜などの動物や、食べ物・飲み物から感染するものもあります。妊娠中に感染した場合、胎児に影響を与えるものもあるので十分な注意が必要です。
また、こうした病原体がお母さんから赤ちゃんに感染することを母子感染といい、胎内での感染、分娩時の産道感染、母乳を介しての感染の3つがあります。
赤ちゃんへの感染を防ぎ、お母さん自身の健康管理に役立てるために、妊婦健診を受診して感染症検査を受けましょう。検査で感染症が見つかった場合には、赤ちゃんへの感染や将来の発症を防ぐための治療や保健指導が行われます。
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気をつけたい感染症
風しんウイルス
妊娠初期(特に妊娠20週ごろまで)に風しんウイルスに感染すると、赤ちゃんが難聴・白内障・先天性心疾患を特徴とする先天性風しん症候群(CRS)をもって生まれてくる可能性が高くなります。妊娠中は予防接種が受けられないため、妊婦さん自身が風しんに感染したことがない場合や、免疫(抗体)が十分にないことが検査でわかった場合、風しんが発生・流行している地域では可能な限り不要不急の外出や人混みを避け、風しんに感染しないよう注意しましょう。
また、周囲の人(夫、子ども、その他の同居家族等)も風しんに感染しないよう、予防に努めてください。同居家族がいままで風しんにかかったことがなく、予防接種歴もない場合は、免疫を確認するための抗体検査を受け、抗体が十分でない場合は予防接種を受けてもらいましょう。妊婦さんも次回の妊娠に備える意味で、出産後はすみやかに風しんの予防接種を受けましょう。
なお、妊娠中に風しんに感染したとしても、必ず赤ちゃんに先天性風しん症候群が起こるわけではありません。妊娠週数によってもリスクは違います。不安なときは産婦人科医などに相談をし、よく説明を聞きましょう。
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肝炎ウイルス(B型肝炎、C型肝炎)
HBs抗原が陽性(+)はB型肝炎ウイルスの感染、HCV抗体陽性(+)はC型肝炎ウイルスの感染を示します。いずれも、自覚症状がないまま、将来、肝炎や肝硬変、肝がんになる可能性があります。B型肝炎ウイルスの場合は、母子感染予防措置も必要になります。いずれも、自覚症状がなくても妊娠中に精密検査を受け、必要な治療を受けましょう。
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B群溶血性連鎖球菌(GBS)
B群溶血性連鎖球菌は女性の腟内や肛門周辺の常在菌で、母体に影響はありませんが、産道感染すると赤ちゃんが髄膜炎や敗血症(ショック)、化膿性髄膜炎、肺炎を起こすことがあります。このため、妊娠後期に内診で検体を採取、検査をしますが、これでGBS陽性だった場合、また前児がGBS感染症だったなどの場合には、抗菌薬の投与を受けながら出産に臨みます。
ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(HTLV-1)
HTLV-1は、血液中のTリンパ球に感染するウイルスです。感染した人のほとんどは病気を発症することなく一生を過ごしますが、ごく一部の人(年間感染者1,000人に1人の割合)は、感染してから40年以上経過した後に、成人T細胞白血病(ATL)という病気を発症することがあります。また、ATLよりまれですが、HTLV-1関連脊髄症(HAM)という病気が起こることがあります。
お母さんが感染している場合は、主に母乳を介して赤ちゃんに感染する可能性があるので、完全人工栄養で赤ちゃんを育てることが勧められています。妊婦健診で陽性になった場合はまず精密検査を受け、授乳方法については医師ともよく相談してください。
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梅毒トレポネーマ
性感染症である「梅毒」の原因菌です。妊娠している人が梅毒に感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、死産、早産、新生児死亡などが起こることがあります(先天梅毒)。このため妊婦健康診査の検査項目となっています。
クラミジア
クラミジア・トラコマチスという病原体は主に性行為でうつって「性器クラミジア感染症」を引き起こします。自覚症状がほとんどないのが特徴で、そのまま分娩すると産道感染して赤ちゃんに新生児肺炎や結膜炎を起こします。抗菌薬を用いて出産までに完治をめざします。
単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルスは口唇に水ぶくれを起こしたり(口唇ヘルペス)、目にトラブルを起こしたり(角膜ヘルペス)しますが、中には性器(外陰部)に水疱やかぶれを起こすものがあり、これを「性器ヘルペス」といいます。ヘルペスウイルスの仲間は一度感染すると体内に潜伏する性質があり、妊娠中にこれらの症状が出てくることもあります。産道感染すると赤ちゃんが重症の肺炎や脳炎を引き起こすことがあるので、帝王切開が必要なこともあります。
サイトメガロウイルス
ヘルペスウイルスの仲間で、やはり体内に潜伏する性質があります。体液を通じてうつりますが、ありふれたウイルスなので多くの人は成長の過程で感染して免疫(抗体)をもちます。しかし最近は子どものころにサイトメガロウイルスに感染することが減少し、現在約3割の妊婦さんは免疫(抗体)をもたない状態になっています。妊娠初期に初感染した場合は、胎児に精神運動発達遅滞、運動障害や難聴などの影響が出ることがあります。
水痘(水ぼうそう)ウイルス
免疫(抗体)のない女性が妊娠中に初感染すると、まれに赤ちゃんに目の異常、皮膚の萎縮、発育障害、神経系の異常、骨格の異常などが生じることがあります。
パルボウイルスB19
幼児に多い「伝染性紅班(りんご病)」の原因ウイルスです。妊娠中に初感染・発症すると、約30%が胎盤を通して赤ちゃんに感染し、胎児死亡や胎児水腫のほか、精神運動発達遅滞などを起こすことがまれにあります。
トキソプラズマ原虫
加熱が不十分な肉、猫のフン、土などに存在する原虫です。妊娠中の初感染により、まれですが赤ちゃんに水頭症などが生じることがあります。抗体があればまず心配はありませんが、妊娠中はペットのフンの始末は他の人に頼むか、手袋とマスクを使用して、終了後は必ず手洗い・消毒をしましょう。
リステリア菌
食中毒を起こす菌の一つです。妊娠中は免疫機能が低下しているのでリステリア食中毒などを起こしやすくなります。感染を防ぐため、妊娠中は生ハムや肉や魚のパテ、加熱殺菌していないナチュラルチーズ、スモークサーモンなどは避けましょう。
