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ケガと事故防止

Q. 1歳。転落事故で緊急手術を受けました。後遺症を少なくすることはできますか。 (2014.10)

  • (妊娠週数・月齢)1歳0か月

今年5月、1歳になる私の赤ちゃんがベビーカーから転落し、急性硬膜下血腫のため緊急手術を受けました。その後、右脳の脳圧が上がり、頭の骨を外さなくてはならないほど重症でした。いまは脳浮腫も治まり、口から離乳食もたくさん食べられるほど回復し、笑うこともできますが、今後の後遺症を心配しています。右脳が脳梗塞のため浮腫を起こし、左脳の前頭野もCTで見る限り少しダメージがあるとのことです。脳浮腫は低体温療法と外減圧開頭手術を施していただいたおかげで軽快しておりますが、てんかんが起きてしまう可能性があります。また、左手の不全麻痺があります。これらをリハビリだけでなく、他の方法でもアプローチできないか、また、知能に障害が出ないようにするにはどうすればいいのか、知りたいと思います。

回答者: 多田裕先生

 1歳のお子さんが転落事故に遭い、緊急手術を受けられたとのこと。さぞご心配のことでしょう。心中をお察しします。

 ご質問にある「急性硬膜下血腫」とは、脳と頭蓋骨の間にある硬膜の内側に出血が起きて血腫(血の塊)ができるもので、脳を圧迫し脳浮腫を続発することもあります。血腫ができたり脳浮腫が生じたりすると、脳が圧迫されて身体にさまざまな悪影響が及ぶため、急いで血腫を取り除くための手術を行います。このお子さんも、血腫を取り除くために緊急手術を受けたのだろうと思います。

 加えて、手術後に「脳圧が高くなって頭の骨を外した」とありますし、「右脳が脳梗塞のため浮腫を起こした」ということで、確かに症状は重いほうで、後遺症を心配する親ごさんのお気持ちはよくわかります。後遺症をなるべく少なくしてあげたい、その方法があれば知りたいというお気持ちだろうと思います。

 まず、心配されるけいれん発作(てんかん)の可能性ですが、確かに、事故によって脳に傷ついた箇所があるので、そこがもととなってけいれんの波が出てくる可能性は否定できません。たた、これは脳波によって診断できますし、症状が出てきた場合には抗けいれん剤を使ってコントロールすることが可能です。主治医の先生にきちんと経過観察をしてもらいながら必要な治療を続けていくことで、最善の結果が得られるものと思います。

 次に、左手の不全麻痺について考えてみましょう。左手の動きや機能は右脳に支配されるので、右脳に「脳梗塞」、つまり脳の血管が詰まって血液が流れなくなった場所があることの影響があるのでしょう。「不全麻痺」とありますから、完全に動かないのではなく、ある程度動くけれども十分ではないという状態なのだろうと推察します。これは、理学療法士など専門家が現状を詳しく診たうえで計画的にリハビリを行ってくれるはずですから、希望をもって取り組むことが改善につながるものと思います。

 後遺症をなるべく少なくするにはどうすればいいか、という点について考えるとき、こうした専門家の治療をきちんと続けていくことの大切さとともに、ぜひ心に留めていただきたいことがあります。

 それは、子どもの脳や身体機能がもつ回復力の素晴らしさです。大人が脳細胞に損傷を受けると回復はなかなか難しいのですが、子ども、とくに乳幼児の回復力は素晴らしく、たとえば、脳の損傷を受けた場所が回復するだけでなく、傷の周囲の細胞が失われた部分を補う可能性も期待できます。

 そうした幼い子ならではの回復力が十全に発揮されるには、リハビリで指示された自宅での運動を心がけることも重要ですが、子どもの自発的行動や、興味をもって取り組む意欲が何よりも大事だと考えられます。そのためにも、「機能回復にはこれをしなければ」などとお子さんの行動を規制するよりも、子どもの興味や意欲が引き出されるような環境を用意してあげるといいでしょう。具体的には、積極的に外に出て五感に刺激を受けること、意欲をもってチャレンジすること、できるようになったことがあれば大いにほめてあげること、などです。

 こうして日々の暮らしを楽しむことが、お子さんの運動機能の回復や、ひいては知能の発達にも良い影響を与えていくものと考えます。

 最後に、多くの読者に向けて、改めて事故予防の大切さをお伝えしたいと思います。実は、小さなお子さんの転落事故は非常に多く、ご質問にあるベビーカーだけでなく階段やベッド、ベランダなどからの転落事故が多く発生しています。最近では、前屈みになったときに抱っこひもから転落する事故も多数報告されて、注意喚起が行われています。お母さんがどんなに注意していても、ときとして発生してしまうのが事故です。いまは事故予防のグッズなどもさまざまあるようです。そうしたものなども利用しながら、子育て中の家庭では事故が起こらないように具体的な対応をお願いしたいと思います。