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仕事と子育て

Q. 生後10か月。後追いが激しく、数か月後にある仕事の研修への参加を迷っています。 (2015.7)

  • (妊娠週数・月齢)10か月

10か月の子どもが、急に後追いが激しくなりました。これまでは私の姿が見えないと探す程度だったのですが、見える範囲でテーブルに移動するだけでもこの世の終わりのように泣きます。実は、1歳1か月になる頃に希望する仕事の研修があり、1か月ほど母に預かってもらう予定でいますが、こんなに後追いが激しくても大丈夫だろうかと不安になってきました。すぐに働かなければならない経済状況ではないのですが、希望する仕事に今後つける可能性が低くなってしまうため、決めかねています。1歳1か月での母子分離は早すぎるでしょうか。

回答者: 高橋惠子先生

 急に激しい後追いが始まったのは、子どもが“愛着”の対象として母親を「特別の人」と決め、母親との関係を深めようとしている時期にさしかかっているためだと思われます。この時期は母子分離がもっとも難しいのです。 

 まず、“愛着”の発達について理解しておきましょう。人間の赤ちゃんは、他の哺乳動物とは違って自分で移動することができない未熟な状態で誕生しますので、誰か大人に守り、世話をしてもらうことによって、心身の安心・安全を確保しなければなりません。そのために、人間の赤ちゃんは「自分を守ってほしい」と誰かに働きかける能力を生れながらに備えています。そして、はじめは人間なら誰でもよいと働きかけるのですが、早い子どもでは生後6か月頃から、多くは1歳前後から、「この人にぜひ守ってほしい」という「特別の人」を決めて、その人に養護を求めます。特定の人を決めたほうが安心・安全を確保しやすいからです。

 ご相談のお子さんの愛着は、「特別の人」を決める段階にあると思われます。「特別の人」として選んだ母親に、「後追い」「一緒にいてとねだる」「すねて母親の注意をひきつける」などの愛着行動を盛んに向けて、母親に全面的に受け入れてもらうことを求めます。この時期(1歳前後から1歳半頃)に特別の人への愛着を発達させるのです。したがって、この時期は母子分離がもっとも難しくなります。せっかく「特別の人」と決めたのに、その人に十分に応えてもらえないというのは、子どもにとってはダメージが大きいことになります。がっかりし、愛されていないのではという不安を募らせます。

 「1か月間祖母に預かってもらう」という文面からでは、どのような預け方を予定されているのかわかりません。もしも、預けるのは昼中だけであり、土日は母親といられるというような計画であれば、祖母が母親の不在時の代理の「特別の人」になるように、いまから祖母にときどきお世話を頼み、母親の代理になれるように練習しておくといいでしょう。また、父親にも育児に参加してもらって、代理をしてもらえるようにすることもできましょう。代理が2人になっても大丈夫です。いずれにしろ、朝夕や休日には母親が居るという状態を確保できれば、子どもは昼中の数時間を代理の「特別の人」と過ごしても大丈夫だと思います。数時間たてば本命が帰って来ることを理解してがまんするでしょう。

 このような回答は「希望する仕事につく可能性」を狭めていると思われるかもしれません。子どもがいても母親が仕事をもつことには大いに賛成ですが、子どもをもつという選択をした以上、弱い立場の子どもの気持ちを最優先して考える責任が両親にはあります。人生90年時代ですから、「いましかない」と考えずに、生涯にわたる計画を立ててはいかがでしょう。子どもは2歳頃には愛着の「特別の人」を信じることができるようになり、こころの安全地帯として使って自立していきます。後追いするのも、抱っこをねだるのも少しの期間です。