家族関係・夫婦・ママ友
Q. 同性愛カップルであることを、3歳の娘にどう話すべきか悩んでいます。 (2017.1)
- (妊娠週数・月齢)3歳
私は同性愛者の女性です。彼女がおり、お互いの親族からの精子提供により、子どもを一人ずつ産んでおります。また、家族になるため、私が彼女の親と養子縁組を組んでおります。今は4人で仲良く暮らしております。しかし、子どもが3歳となり、この事実をどう話すか悩んでおります。現時点では、保育園、近所には、私たちは姉妹で、お互い未婚で一緒に暮らしているということになっております。今後もいじめなどの不安から、このスタンスでいけたらと思っています。しかし、子どもには真実を話さなければいけないと思っております。しかし、子どもは友だちに軽い気持ちで話してしまい、それが広がり、いじめに繋がらないかと心配もしております。真実を言うのは、ある程度大きくなってからの方がよいでしょうか?
回答者: 高橋惠子先生
わが国では最近になってようやくLGBTという単語が定着し、人権の新しいページが開かれ始めました。2015年には、東京都渋谷区が同性カップルを結婚に相当する「パートナーシップ」と認定する証明書の交付を開始しました。家族についての古い価値観からなかなか抜け出せない保守的な日本人ですが、当事者や支援者の努力によってセクシュアリティについての多様な現実を認めざるをえなくなったのです。質問者のご家族は時代の先頭を歩いているのですから、周囲がどう思うか、特に、子どもに不利な状況が生じないかと心配されるのはよく理解できます。以下、3点に分けて述べてみたいと思います。
まず、家族の実態についての議論を紹介しましょう。
家族であるための条件は何か、を考えてきた文化人類学や家族社会学などの内外の研究者たちは、実際に家族を構成するメンバーが多種多様になり、もはや家族を定義することができなくなったという結論に達しました。これが20世紀末のことです。それまでのように、「異性愛の父母と、血縁のある子どもからなる単位」として家族を定義することができなくなったというわけです。つまり、異性愛を唯一正当なセクシュアリティとし、これが家族を構成する条件であるとするのは誤りだと指摘されました。そうではなく、家族とは「私たちそれぞれが親しみを感じる人々との関係性だ」とするべきだというわけです。具体的には「あなたにとって家族とはどの人々を指しますか?」と問われて挙げられる人たちが、その人にとっての家族であるというわけです。これを家族と呼ぶのは紛らわしいので、親密圏と呼ぶのがよいという提案もされています。これが、家族の成員についての実態です。つまり、もはや、質問者の家族が“特殊だ”と考える必要はないということです。
次に、同性婚での子どものことを考えてみましょう。
同性婚を合法だと認めた米国—これは2015年6月のことであり、米国はこれを合法とした世界で21番目の国になったそうです—、その米国で子どもを育てている同性カップルはすでに10万組を超え、レズビアンカップルでは3分の1、ゲイカップルでは5分の1が子どもを育てているそうです。そして子どもの内訳は実子、養子・里子、継子、その他(孫、きょうだいなど)がそれぞれ、51、18、10、20%だということです。日本では同性カップルの家庭で育つ子どもについての資料はまだないようです。しかし、親密圏に子どもを含めたいという気持ちを持つ人があることは充分に考えられますので、かなりの数の子どもが同性婚の家庭で暮らしていると思われます。そして、将来、日本の特別養子縁組や里子を育てる条件がもっと緩和されていけば、親密な関係の中で暮らす子どもが増えることが期待されます。
そして、オーストラリアの研究者グループが、同性婚のカップルの子どもと異性婚のカップルの子どもとの発達の比較研究を精力的にしています。それによると、両グループには差がないことが報告されています。そして、家族との関係は同性婚の家庭の子どもの方が良く、これは同性婚のカップルが二人の関係をより重視し、コミュニケーションをより活発にするようにしているせいではないかとしています。同性婚は子どもの育つ環境として問題がないばかりか、優れていることが報告されているのです。
最後に、この家族構成について、子どもにいつ、どのように伝えるかという問題です。
自分の出自を知る権利、親が誰であるか知る権利を子どもは持ちます。そして、同性婚の親たちは子どもの出自を、自分たちの家族の構成についてを、どのようにうまく子どもに伝えるべきかを悩みます。しかし、実際の事例を検討してみたところ、真実を伝える方法や時期を一般的にいうのは難しいと思いました。
けれども、私が専門とする発達心理学から言えば、子どもは3歳頃には自分の性別に気づき始めることがわかっています。そして、友だちの保育園のお迎えには父親が来たり、母親が来たりすることにも関心が向くでしょう。この時期に、どうしてうちにはママがふたりいて、パパがいないのという質問を始めるかもしれません。これには「そうよ、ママがふたりいるのよ」とだけ答えればよいでしょう。ゲイカップル家庭の小学生の男児が「僕はパパが二人いてラッキーなんだ」と友だちに語る言葉を聞いて、そうだ、この少年は間違いなく“普通の家庭で”育っているのだと教えられた、と杉山麻里子さんはその著書『ルポ同性カップルの子どもたち』(2016、岩波書店)で書いています。子どもが青年期(小学校高学年〜中学入学の頃)に入り、セクシュアリティに関心を持つ頃が同性婚について伝える時期と考えてはいかがでしょう。子どもにとって何よりも重要なことは、愛情深く育てられることです。その親密な関係性の中で語られる言葉はよく理解されると信じてよいと思います。