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歯とお口のケア

Q. 10か月の子。私の飲みかけの麦茶を飲んでしまいました。 (2020.4)

  • (妊娠週数・月齢)10か月

10か月の子どもには、現在、上4本と下2本の歯が生えています。先日、私の飲みかけだった麦茶を、子どもが飲んでしまいました。すぐに子どもの口を水ですすぎ、ガーゼで口の中を拭きましたが、虫歯菌がうつっていないか心配です。あれほど気をつけていたのに、コップを放置してしまったことをとても後悔しています。むし歯菌はすぐに子どもへうつってしまうのでしょうか?

回答者: 井上美津子先生

 10か月というとまだ離乳食が中心で、砂糖をほとんどとっていない時期です。むし歯菌が口の中に入っても、すみつきにくい状況ですので、それほど心配はいらないと思います。

 「むし歯菌がうつる(感染する)」という表現のなかには、じつは2つのステップがあります。それは、むし歯菌が口の中に入ってくること(伝播)と、むし歯菌が口の中にすみつくこと(定着)です。そして、むし歯菌の定着が起こることが、むし歯菌がうつる(感染する)ことと考えられています。

 むし歯の原因となる細菌には、いろいろなものがあります。以前はラクトバチルス菌(乳酸桿菌)などの酸を産生する菌が、むし歯菌の主体と考えられていましたが、20世紀後半にはミュータンスレンサ球菌(以下ミュータンス菌)が、むし歯の原因として最も重要な役割を果たす菌であることがわかってきました。ミュータンス菌は、糖を分解して酸をつくるだけでなく、砂糖から粘着性のある物質をつくって歯の表面に強固に付着します。これが、他のいろいろな菌が歯の表面に付着してプラーク(歯垢)になるベースをつくるわけです。

 むし歯ができるまでのステップとしては、まずミュータンス菌が周囲の大人(主に母親)の口の中から主に唾液を介して子どもの口の中に伝播し、砂糖の存在下で歯の表面にプラークとして定着します。そのプラークの中に多種類の細菌がすみつき、食事などで摂取した糖を取り込んで代謝・分解して酸をつくり、その酸がプラークのpH(酸性度)を低下させます。すると、プラークに接した歯の表面からカルシウムやリンが溶けだして脱灰が起こります。この脱灰が頻繁に繰り返されると、脱灰が進行してむし歯が発生します。

 そこで、むし歯を予防するためには、まずミュータンス菌の伝播・定着を抑制すること、そして糖(とくに砂糖)の摂取やプラークの付着をコントロールすることが必要となります。ミュータンス菌の伝播は、出生後すぐから起こりうると考えられますが、まだ歯が生えていないと菌は口の中にとどまれません(すなわち定着しません)。生後6か月ごろから乳歯が生えてきても、離乳食のうちは砂糖をとる機会が少ないので、まだミュータンス菌の定着は起こりにくいと思われます。ただし、1歳前でもジュースなどの酸性の飲料を哺乳びんで与えることにより、飲料の酸で歯が溶ける(酸蝕症といいます)場合があるので要注意です。乳歯の本数が増え、砂糖を含んだ飲食物の摂取が始まると、ミュータンス菌の定着が生じやすいといわれています。1歳代前半で乳歯の奥歯が生え始めるとプラークが付着しやすくなり、離乳が完了して間食をとり始めると、糖分の多い飲食物を摂取しやすくなり、菌の定着が起こりやすくなります。とくに、身近な人たち(親)に未治療のむし歯があったり、口腔ケアが不良で口の中にミュータンス菌が多く、噛み与えやスプーンなどの食具の共用があると、伝播される菌の量が多く、菌の定着がより促進されるといわれています。

 このようなことから、ミュータンス菌の定着が最も起こりやすいのは1歳半から2歳半ごろといわれており、その後4~6歳ごろになると、親の食事介助の機会なども減ってきて、子どもの口の中の細菌叢(菌の種類や割合)も安定してくるので、伝播・定着のリスクは減ってくるものと思われます。

 むし歯のリスクを減らすために、ミュータンス菌の伝播・定着をコントロールすることは大切であり、菌のやりとりが多い噛み与えや食具・歯ブラシなどの共用は控えた方がよいと思われますが、まずは周囲の大人の口の中を清潔に保っておくことが重要です。また、ミュータンス菌の定着が起こっても、子どもの食生活を規律性のあるものとし、糖分の多い飲食物を控えることと、歯磨き(親の仕上げ磨き)でプラークを除去することで、むし歯を予防することはできます。対応法はいろいろあることを念頭に置いて、親子でむし歯予防を考えていただければと思います。