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歯とお口のケア

Q. 母親がむし歯だと、母乳を飲む赤ちゃんに影響がありますか? (2023.6)

  • (妊娠週数・月齢)3か月

母親にむし歯や歯周病があった場合、母乳を介して赤ちゃんに影響が出ることがあるのでしょうか? 母親の口内環境が赤ちゃんに与える影響について教えてください。母乳は血液から作られるとのことなので、不安でたまりません。

回答者: 井上美津子先生

 母親にむし歯や歯周病があっても、その原因菌(むし歯菌や歯周病菌)が母乳を介して赤ちゃんに直接感染するという報告は見たことがありません。むし歯菌や歯周病菌が子どもに伝播するのは、主に唾液を介してであり、それも唾液そのものではなく、口の中で唾液に混ざった細菌が原因なのです。妊娠期も、出産後も、歯みがきや食生活に気を付けて口腔内環境を整え、むし歯や歯周病の発生・進行を予防することは大切ですが、母乳からの菌の感染にあまり不安を抱く必要はないと思われます。

 母乳は、乳房内に張り巡らされた血管から栄養素や水分、その他の成分(血球成分や免疫物質など)を吸収して、乳腺組織で作られます。薬剤などが微量に母乳にも移行して赤ちゃんに届くことがあると言われていますが、影響の大きい薬剤はわかっているので、医師や薬剤師に相談すれば大丈夫です。またウイルス感染症の中には、母親が感染していることで母乳を介して赤ちゃんに感染するリスクがあるものも報告されていますが、ごくまれです。一般的には母乳を介してウイルスが赤ちゃんに感染するリスクは低く、ウイルスよりサイズが大きい細菌はさらに母乳に移行しにくいため、リスクもさらに低くなるものと考えられます。

 母乳と唾液は、どちらも血液から作られますが、乳腺や唾液腺などの組織で作られたときには通常は無菌状態です。口の中に分泌される唾液は、さまざまな口腔細菌にさらされて無菌ではなくなり、食べ物や食具、歯ブラシなどに唾液が付着することで、菌が子どもに伝播するリスクが出てきます。それに比べると、赤ちゃんの口の中に取り込まれた乳首から分泌される母乳は、菌にさらされるリスクもあまりないまま摂取されると考えられます。母乳には、赤ちゃんに必要な栄養ばかりでなく、多くの免疫物質も含まれているので、心配しないで与えてください。

 また、母親の口腔内環境が赤ちゃんに与える影響をご心配のようですが、この点では母親ばかりでなく、一緒に生活している大人たちを含めて、自身の口腔内環境や子どもへの対応には少し気を付けてほしいと思います。むし歯の原因菌であるミュータンスレンサ球菌に関する研究でも、母親の唾液中の菌数が多いほど、子どもの口腔内での菌の検出率が高くなり、またむし歯の数も多かったと報告されています。母親や周囲の大人たちが、きちんとむし歯を治療し、歯みがきをていねいに行って、口腔内のむし歯菌の量を減らしておくことが重要です。

 また、菌の伝播の機会を減らすためには、食べ物の噛み与えや食具・歯ブラシの共用などを避けることが望まれます。そして、子どもの口の中に菌の定着を促進する砂糖の摂取を控えることも大切でしょう。むし歯菌は、感染(伝播・定着)したらすぐむし歯を発症させる細菌ではありません。感染から発症までに時間がかかり、また発症には多くの要因(食生活や歯みがきなど)が関連するむし歯の特性を踏まえて、子どもの生活習慣を含めた対応を考えていきましょう。