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歯とお口のケア

Q. 親の唾液が手に付着した場合、どの程度、洗浄すればよいのでしょうか? (2023.9)

  • (妊娠週数・月齢)5か月

生後5か月の子どもに歯が生え始めました。親の歯のケアや食器の共有を避けるなど、むし歯菌の感染予防に日々気をつけています。ところで普通に生活していると、自分の食事や歯みがきのときなどに、自分の唾液が手に付着してしまうことがあります。その手で子どもに触れないように極力気をつけているのですが、どの程度の洗浄で効果があるのでしょうか? 唾液を水や石鹸で洗えば問題ないですか? アルコールなどで消毒したほうがよいのでしょうか?

回答者: 井上美津子先生

 ご質問の保護者の方は、むし歯菌が周囲の大人たちの口の中から唾液を介して感染しやすいことや、そのためには周囲の人たちの口腔内をしっかりケアして菌を少なくしておくこと、食器・食具の共用や食べ物の噛み与えなどを避けた方がよいことなどは、すでにご存じで実行されているようです。現状では、あまり問題があるようには思われません。 ただ、「唾液を介して感染」ということから、親の手に付いた唾液についてご心配されているようですね。 基本的には食事や歯みがきのあとに手洗いをすることで、唾液とともにむし歯菌も洗い流されてしまうことと思います。
 
 むし歯は、ミュータンス菌などの酸産生能のあるむし歯菌が、歯の脱灰(歯からカルシウムなどのミネラル成分を溶出させる)を引き起こすという「細菌が関与する一種の感染症」ではありますが、むし歯菌が口の中にいるだけで発症する病気ではありません。酸産生菌がプラーク(歯垢)という形で歯の表面に住みついて(定着)、そこに飲食物の糖分が供給されることで産生された酸が歯の脱灰を引き起こすので、むし歯の発症には歯みがきや飲食の習慣などの生活習慣が大きく関わります(その意味では、むし歯は「生活習慣病」ともいえます)。

 分泌された時点での唾液には、むし歯菌ばかりでなく菌は含まれていません。口の中にたまっているうちに、歯垢や口腔粘膜に存在していた菌が唾液に入りこみます。むし歯の多い人の歯垢やむし歯のう窩(歯に開いた穴)の中には、多量のむし歯菌が存在するので、唾液中の菌量も多くなります。 
 一方、きれいに清掃されてむし歯の治療も済ませてある口の中では、唾液中の菌も少ないわけです。 母親の唾液中のむし歯菌の量が多くなると、子どもへの菌の感染(伝播・定着)のリスクが高くなることは実験的にも確かめられていますが、またある程度以上の菌量(細菌の数)にならないと感染(定着)が起こりにくいことも報告されています。伝播しても定着しなければむし歯菌の感染は成り立たないので、周囲の人たちの唾液の菌量を減らすことや伝播の機会を減らすこと、菌の定着を促す砂糖の摂取を減らすことなどが大切といえるでしょう。

 手に付着した唾液の中のむし歯菌は、流水で洗ったり、石鹸などで洗えば、唾液とともに洗い流されてしまうものと考えられます(実験などで確認されたものではありませんが、感染が起こるほどの菌量は残らないと思います)。とくに滅菌や消毒などの対応は不要でしょう。