家族関係・夫婦・ママ友
Q. 実母への長年の不満が子育てに影響しそうです。 (2023.11)
- (妊娠週数・月齢)2歳
2歳8か月の娘は私の実母になついています。そのようすを見ると、長年の母への不満がつのり、つらくなります。母は自分をすばらしい母親だと思っていますが、実際は過干渉で支配的、子どもの心に無関心でした。私はいまでも「なぜあのときこうしてくれなかったの?」「私自身をどうして見てくれなかったの?」「なぜ話をちゃんと聞いてくれなかったの?」などの思いが消えません。しかし、母にこの思いを伝えたことはありません。ときどき目の前の娘に幼いころの私が重なり、私自身に実母が重なり、昔の実母の言動がフラッシュバックして苦しくなります。そのたびに母を反面教師とし、私はあのような親にはなるまいと思って娘に接しています。
一番つらいのは、娘が私の母を求めるときです。転んだときなど、私でなく「ばあばー」とその場にいない祖母を求めて泣きます。娘が誰かを好きな気持ち、頼りたい気持ちは大切にしたいです。誰とどんな関係を築くかは、私が決めることではなく娘が決めることだからです。「ばあば」のことを悪く言えば娘は傷つくだろうし、私に気を遣うでしょう。それでは私が母と同じことをしたことになります。なので、転んで「ばあばー」と泣く娘を抱きしめ、「痛かったね。ばあばがいいんだね」と声をかけますが、「なぜ、ばあば? 悲しい」と感じてしまいます。
また、母は娘に対し、私にしたように支配的な言動をすることがあります。そのたびに「そういう言い方はしないで」「娘に接するときはこうしてほしい」などと伝えています。しかし、今後も母と会うたび神経を使うのかと思うとストレスで疲れてしまいます。また、自分と同じように、娘が傷つけられないかと気が気でありません。
さらに母を好きになれない自分が、娘と良好な関係を築けるのか不安になります。夫には母への思いを伝えたうえで、育児の方針などを話し合い、二人で協力しながら子育てをしていますが、ふとしたときに自信をなくし、一人でいると涙が出ることがあります。どうすれば自信を持って子育てをしていけるでしょうか。
回答者: 高橋惠子先生
現在の状態を改善するきっかけとする4つのことを提案したいと思います。
第一には、母親に不満を抱くこと、母親が好きではないことはよくないことだという、あなたの“うしろめたさの感情”を捨てることです。
母性愛という言葉に代表されるように、「母親は子どもを愛し、自分を犠牲にしてでも子どもを育てるもの」とし、そして、「子どもはそのような母親を誰よりも好むものだ」とするのは、便宜的に作られた仕組みです。歴史、政治、経済、ジェンダーなどの視点から社会制度を検討している研究者たちは、「女性は母性愛を持つ」「母子関係は親密なものである」などと決めるのは誤りで、母子関係を特別視する仕組みは、社会を動かしてきた男たちが自分たちの都合で決めたものであることを明らかにしています。男たちは母性、母性愛などという概念を作って、手のかかる育児・家事は女性の仕事だ、時には、“女性の天職”だとまで言って、“内助の功”を当然とする社会の仕組みをつくってきたのです。この仕組みに捕らわれた母親たちはそのように生きるしかすべがなく、そして、娘たちはそのように生きてきた母親を好きになれない、母親の存在が重い、母親に自分が似てきて恐ろしい、子どもが愛せないなどと苦しみ、助けを求めて心理相談室を訪れていると報告されています。娘も、そして、母親も、ともに男社会の犠牲者であり、それぞれに悩みが深いのだといえます。この女性の母親についての複雑な心理・感情は女性小説家たちのテーマとされ、興味深い作品がいくつも生まれています。“母性という罠”を考える参考になるはずです。
第二には、母親が好きになれないのであれば、物理的に母親から離れてみることです。
まず、できるだけ母親に会わないようにしましょう。そのうえで、現在の母親から、あるいは、幼いころの母親の記憶から自分を解放するためには、自分自身の生き方を明確にすることです。母親にとらわれないためには、母親とは異なる生き方をしているという自信を持つことだと思います。仕事、趣味、資格を取るための勉強、ボランティア活動など、自分固有の世界を広げることです。自分の世界を持つと、母親に関わっている時間も気持ちもなくなるはずですし、そしていつか、母親の生き方も客観的に理解できるようになることでしょう。
第三には、お子さんが祖母を慕っているという事実の受け止め方です。書いておいでのようすからすると、お子さんの“第一の愛着の対象”は祖母であると思われます。しかし、2歳8か月という年齢からすると、子どもの愛着の対象が祖母ひとりであるということはないと考えられます。困ったときに「ばあばー」と呼ぶことから、祖母が第一の愛着の対象であることがわかります。第一というのは、第二、第三などの複数の愛着の対象の存在が想定されるからです。子どもは子どもを大切に思う人々に囲まれていますので、安心を支えてくれる数人を選んで頼る人を決めているはずです。第一の愛着の対象の祖母がその場にいなければ、第二の対象(例えば、母親)に援助を求めます。「ばあばー」と泣いても、母親がしっかり愛情を示せば落ち着くことでしょう。子どもの不安をしっかり受け止めて、「大丈夫よ」と声をかけ、大事に思っていることを伝えましょう。「あなたが大好きよ」「あなたは大事な子どもよ」と抱きしめて、言葉に出してしっかり伝えてください。5歳児の調査では、「あなたは大事な子?」と子どもに質問したところ、「そうだよ、ママがいつもそう言うからね」と胸を張って答えました。幼児にでも、親が言葉で気持ちを伝えることが大切です。
第四には、育児についての自信を持ちましょう。母親と自分が似てくるなどと考える必要はありません。どう育ててほしいかは、子どもが親に教えてくれると考えるのがよいと思います。育児がうまくいっているかは、子どもが元気でたくさんの笑顔を見せているかを基準にするとよいでしょう。それには、母親も父親も、笑顔のある日々を過ごすことが大切です。子どもにどう生きてほしいか、どういう社会をつくる市民になってほしいか、人生百年時代にはこれまでにない新しい課題と可能性があるはずです。