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ホーム連載・読み物 インタビューシリーズ第6回 小野わこさん

インタビューシリーズ:親も子もトライ&エラー

日々、親ごさんと接しているかたや、子育て奮闘中のかたにお話を伺っていきます。

シリーズ第6回
「精一杯やっている」と、
もっと自分をほめましょう

小野わこさん

小野わこさん
プロフィール
「親の時間」代表
再評価カウンセリング北海道代表

子育てが大変だったとき、話を聞き合う「再評価カウンセリング」に出会ってラクになった、と話す小野わこさん。 「『あなたのせいじゃないよ』『精一杯がんばっているよ』のひとことに、どれだけ気持ちがほぐれたか」 その後、小野さんは話を聞き合う「親の時間」の活動を始めました。10年目を迎えたいま、活動を通して見えてきたことを伺いました。

2007年9月12日掲載

話を聞いてもらったことで
人生が変わった

編集部:お互いに話を聞きあう「親の時間」を開催されているそうですね。どういうきっかけで、始められたんですか?

小野:発端は、自分自身が子育てがすごく大変だったとき、日本に再評価カウンセリングを広めた安積遊歩さんと出会ったことでした。話を聞いてもらったことで、人生が変わったんです。

編集部:どんなふうに?

小野:それまでは、つらいことがあってもいつも我慢して、感情を抑えて生きていました。それは、周りの人間を信頼できないという気持ちもあったからです。でも安積さんに子ども時代の母とのつらい思い出を聞いてもらったら、涙が溢れてきて・・・。おとなになって初めて他人の前で大泣きして、自分の気持ちを素直に表現したことでわかったことは、私は、本当は母にとても愛されていたということでした。そうしたら、それまでわが子に愛情を表現するのが難しいと思っていたのが、優しく接することができるようになったのです。

話を聞き合う「親の時間」
をスタート

編集部:それで、「親の時間」の活動を始められたんですね。

小野:ええ。子どもは、傷ついたら泣いたり、かんしゃくを起こしたりして、そこから立ち上がろうとします。泣くという行為は、「傷を癒す」という生まれつき人間が持っている能力なのです。泣くことが大切なことだとわかれば、子育てがラクになる。私は、そのことを他の親ごさんたちにも知らせたいと思って「親の時間」を始めました。親ごさんにも、安心して泣ける場所を提供したかったのです。

何を言っても否定されず、泣いてもそれをしっかり受け止めてもらえる場、それが「親の時間」です。

親の時間

小野さんが主催する「親の時間」は、現在6グループ。各グループ、一月2回の開催。会費は3か月で9000円。写真は「親の会」のリーダー研修会

編集部:何か特別な手法を取り入れているんですか?

小野:基本的には、話を聞きあうだけです。ただ、次のようなルールを決めています。

  1. グループは6~7人の少人数とする話す時間は1人○分ずつなど、話す時間を均等に決めておく
  2. 話したくなかったら、無理に話さなくてよい
  3. 聞いた内容についてお互いに、否定しない、批判しない、批評しない、アドバイスしない
  4. 聞いた話を、他にもらさない
  5. 聞いた話について、後日「どうなった?」と聞かない
  6. 話している最中に、泣いたり、笑いが出たりしたら、その感情をとめることなく聞く。

これらのルールがあるだけで、あとは自由に話します。

「子育てがうまくいかない」
と思っている人が多い

編集部:みなさん、どんな迷いや悩みを持って参加しているのでしょうか?

小野:「子育てがうまくいかない」と感じているお母さんが多いですね。そしてそのほとんどが、「うまくいかないのは自分のせい?」と気にしている。「甘やかしたから」「厳しすぎたから」「親として自分はふさわしくない」・・・など。自分のやりかたが悪かったのではと、自分を責めて苦しんでいます。

編集部:「親の時間」に参加すると、変わりますか?

小野:参加して1~2回目で、「自分のせいじゃなかったんだと気がついた」「気持ちが楽になった」と言います。

編集部:1~2回目で? 早いですね。

小野:4~5人から話を聞くので、それだけで発見があるようです。何を言っても批判されないとわかるとみんな安心して自分の気持ちを正直に話しはじめます。時には泣きながら。そして他の人たちの話を聞いていると、「この人は一生懸命やっている」「あなたのせいじゃない」と、すぐにわかる。同時に、「自分も一生懸命やっているじゃないか」と、気づくんですね。

一生懸命やっているのに、
責められることのほうが多い

編集部:なぜ、「自分のせい」と思ってしまうのでしょう。

小野:だって、もともと社会は理想の母親、父親像を掲げているわけですから、そんなふうになれないのは自分のせい、と思ってしまうわけです。

そして、何か事件があるたびに、マスコミは「親が放任だった」「親が溺愛していた」と、親の責任を追及するでしょう? もちろん、子育ての責任は親にもあるのですが、それがあまりにも重い。親はますます、「自分の育て方のせい」と自分を追いつめています。

編集部:一方、大変な思いをして子育てしていても、ちゃんとできてあたり前、というのが世間の評価。「よくやっているね」と、ほめてくれる人がいるわけでもありませんね。

小野:そう。だから、「親の時間」で「精一杯よくやっているよ」と言われた瞬間、堰をきったように泣き出す人もいます。自分のことを認めてもらえて、気持ちがほぐれるのでしょう。

どの親ごさんも、みんな一生懸命子育てしている。もっと、「よくやっているね」と、自分で自分をほめていいと思います。

話を聞いてもらうと、
子どもの話も聞けるようになる

編集部:親自身が「自分はよくやっている」「自分のせいではない」と思えると、子育てにもよい影響がありますか?

風景2

小野:ある参加者は、「話を聞いてもらったあとは、子どもの気持ちがわかるようになった」と話してくれました。

子どもがグズって泣いても、「困らせるために泣いているのではない。辛い体験があって、その気持ちを聞いてほしいと思って泣いているのだ」と、わかるようになったそうです。

それに、親が自分自身の子育てを認めることは、子どもの「ありのまま」を認めることにもつながりますよね。

編集部:それは、どういう意味ですか?

小野:「自分のせい」と思っている限り、「子どもの現状はよくない」と、子どもを否定していることになるでしょう? 親が自分の子育てを肯定的にとらえることは、子どものことも肯定的にとらえることなんです。

編集部:なるほど。

「赤ちゃんって、こういうもの」
と、特性を知ることも大切

小野:そもそも、親ごさんが不安に思っているのは、子どもが、本来持っている特質についてのことが多い。
たとえば、乳幼児が「泣き止まない」「じっと座っていない」「オモチャを友だちに貸せない」「おとなしすぎる」のは、実は自然な成長・発達の過程であったり、持って生まれた個性だったりします。

編集部:「赤ちゃんって、こういうもの」「子どもって、こういうもの」という、特性を知っておくことも大切なのですね。

小野:子どもは、大人が「こうなってほしい」と思っても、簡単にコントロールできるものではない。育てかたが悪いわけでも、育て方によって変わるものでもない。むしろ、思い通りにならなくて当たり前なんですね。

悪いところを直すより
「よいところ」に目を向ける

編集部:子どもの「ありのままを認める」とよく言いますが、具体的にはどのように接すればよいのでしょう?

小野:できるだけ、子どもの「よいところ」「できること」に目を向けることだと思います。

おとなしい子は、おとなしいなりの良さがあるし、活発な子は活発なりの良さがある。大人の多くは、頭のどこかに「元気で明るいのが良い子」と思っていていますが、それは、大人が勝手に描いた理想像に過ぎない。

日本人は、「よいところを認めて伸ばそう」というより、「悪いところを直そう」という意識のほうが強い傾向にありすね。でも本当は、子どもは「親から認められている」「ほめられている」という感覚をたくさん体験しながら育ったほうがいいと思います。

「親の望み」は
本当に子ども望みか?

編集部:10年間、「親の時間」に携わってこられて、とくに感じていることはありますか?

小野:親ごさんと接していていつも感動するのは、子ども時代につらい体験をした人は、子どもにだけは「同じ思いを味あわせたくない」と、けなげに願っていることです。それは、親の深い「愛情」なんですね。

でも、ときどき、その愛情が「押しつけ」になっているのでは? 子どもが望んでいることと食い違っているのでは? と思うことがあるんです。

どんな幼い子でも、
「自分の気持ち」を持っている

編集部:どうすれば、押しつけや先回りをしなくてすむでしょうか。

小野:一度、子どもに聞いてみるといいと思います。「あなたは、本当にそれを望んでいる?」と。

聞いたからといって「すべて、子どもの言う通りにしてあげる」必要はありませんが、少なくとも聞くことはできるはずです。どんな小さい子であっても。

編集部:赤ちゃんにも?

小野:ええ、生まれたばかりの赤ちゃんにも聞いてあげてほしい。「どうせ、わからないだろう」と思って、何も聞かない人、話さない人が多いと思いますが、どんなに小さくても、対等な人間として対応してほしいと思います。

よく、お母さんが出かけるとき、お父さんに預けて、こっそり出かけてしまうケースがありますが、本当はどんなに泣いても、ちゃんと説明して「必ず帰ってくるからね」と言って出かけたほうがいいと思います。何の説明もなくお母さんがいなくなったら、子どもはもっと不安になるでしょう。

説明してもらっていたら、お母さんと離れるのが悲しくてそのときは大泣きするかもしれませんが、「大切にされている」ことも、わかってくれるでしょう。

編集部:ただ、子どもの意向を尊重するとひと口に言っても、日々の忙しさのなか、実行に移すのは、難しそうですね。

小野:そうですね。でも、意識するのとしないのとでは、違う。最初から「わからないだろう」と、あきらめないことです。子どもって、大人が想像する以上に、いろいろなことを考えているんです。

娘たちが3歳、9歳のときに母子家庭になり、子どもたちで留守番させなくてはならない日もたくさんありましたが、必ず説明してでかけました。
娘たちは、ときどき「行かないでー」と泣きましたが、泣き終わると、「ママ、早くかえってきてね」と、あっさり笑顔で見送ってくれました。
あるとき、海外出張の仕事を依頼されたときは、二人とも「一週間もママに会えないのは寂しい」と大泣きするので、やはりこの仕事は断ろうとしたら、上の娘がこう言ってくれたのです。

「私たちは、寂しいから泣いているだけで、ママに仕事をやめさせようと思っているのではないよ。だから、ママは私たちが泣いているのをただ聞いてくれる?ママがしたいことを、私たちのためにあきらめる必要はないんだよ」

これまで数多くの親子の話を聞いてきましたが、いつも感心するのは、親子って、なんてお互いのことを思い合って生きているんだろう、ということです。