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ホーム連載・読み物 インタビューシリーズ第8回 井上志津さん

インタビューシリーズ:親も子もトライ&エラー

日々、親ごさんと接しているかたや、子育て奮闘中のかたにお話を伺っていきます。

シリーズ第8回
仕事と子育て大変?
子どもがいれば、楽しさの方が大きい!

井上志津さん

井上志津さん
プロフィール
毎日新聞社

今回は「仕事もしたい 赤ちゃんもほしい」の著書もある井上志津さんに、子育てしながら働き続けてきたこれまでを振り返りながらその楽しさやご苦労についてお話を聞きました。

2007年11月13日掲載

妊娠を知ったときの
喜びと戸惑い

編集部:妊娠がわかったときはどんな気持ちでしたか?

井上:子どもがほしいと思っていたので、妊娠したときは、とてもうれしかったことを覚えています。もちろん、仕事との両立を考えると不安はありましたが、産むことに少しのためらいもありませんでした。

編集部:周囲の反響はいかがでした?

井上:妊娠がわかったときは、ちょうど職場で念願だった映画担当に配属されたばかりだったので、母は開口一番、「せっかく希望の担当になれたのに、いいの?」と心配してくれました。

編集部:職場では?

井上:当時、部内で産休や育休をとる記者は初めてという状況だったので、妊娠4か月で上司に妊娠を報告、「育休を取らせていただきます」といったら、「イクキュー?」と聞き返されました(笑)

編集部:働きながらの妊娠生活で大変だったこと、それを軽減するために工夫したことはありますか?

井上:妊娠7か月のとき、体調を考えて夜勤を減らしてもらうようにお願いしました。減らしてもらうとなると、その分、他の人の仕事が増えるわけですから、なかなか言い出せなくてセリフを一生懸命考えたりしましたが(笑)、実際に言ってみたら、すぐに配慮してくれました。
何も言わなくてもわかってもらえるだろうというのは甘えで、きちんと口に出して相手に伝えるなど、こちらから働きかける努力が必要なのだと実感しました。

「子育て」を通して
見えてきたもの、得たもの

編集部:出産を経て、自分の中で変わったことはありますか?

井上:産まれる前は、夫婦2人の暮らしに新メンバーが加わってうまく暮らしていけるのか、不安がありました。私は子どものころから人見知りで、知らない人に慣れるのに時間がかかるタイプなので(笑)。
それに、「子どもがいなければもっと仕事ができるのに」などと自分が思ってしまうのではと、怖れていました。

でもそんなことはまったくの杞憂でした(笑)。むしろ、子どもの存在に励まされることの方が多い。仕事で大変なことがあっても、娘の笑顔に迎えられると、幸せな気持ちになります。

何よりも、以前はわが身のことしか考えられなかった自分が、守るべき大切な存在があることによって、人間として成長させてもらえたと思うし、取材相手への理解が深まったようにも感じます。痛ましい事件も、被害者の心の痛みが以前よりも実感を伴って迫ってくるようになりました。

子育て中のすべての人がやっていることですが、日々の子育ての営みそのものが、私にとっては、かけがえのない経験です。

復帰前に自問自答…
「なぜ自分は、働くのだろう?」

編集部:育休から復帰する直前になると、みなさん、さまざまな思いに揺れ動くもののようですが、井上さんはいかがでしたか?

井上:復帰直前、産院で知り合った人から、「15年勤めた会社を辞めた」と連絡があったんです。彼女は育休後に復帰する予定でした。
理由は書かれていませんでしたが、彼女に限らず、復帰後に辞める人が多いと思います。事情は人それぞれでしょうけれど、両立はそう簡単ではないことはたしかでしょう。
そんななか、私はなぜ働き続けるんだろう・・・? と、考えてしまったことがありました。
その疑問を母に投げかけてみると、母は
「自分のためよ。それが結果的には子どものためになる」
と言うんです。
それでも私が「大きくなった子どもは、私を批判したりするんじゃない?」と言うと、
「この子はいい子だから、そんなふうにはならない」と、やけに自信たっぷりに言われました。

編集部:心強い答えですね。

井上:励まされました。

保育園生活に
親子で慣れるまで

編集部:1年間の育休を経て、娘さんは保育園に入ったのですね?

井上:はい、1歳で入園しました。当初は、「もっと、日々の成長を近くで見ていたい」という思いに揺れました。保育園で私と別れる娘の寂しい気持ちを想像すると、胸がはりさけそうになりました。実際、最初のころは泣かれてしまって、ほんとうにつらかったです。

でも、それもずっと続くわけではなくて、2か月もすると、泣かなくなりました。今では誰よりも早く起き、保育園に出かける用意を自分ひとりでしています(笑)

お迎えに行っても元気に遊んでいる姿を目にすると、私の頭も仕事から家庭にスイッチが切り替わり、「明日からまた私もがんばろう」という気持ちになります。

仕事は私にとって
生きることそのもの

編集部:復帰後の仕事はいかがでしたか?

井上:復帰初日に、さっそく子どもが熱を出して、夫に仕事を休んでもらいました。その後も、仕事で帰りが遅くなるときは、ファミリーサポートセンターやベビーシッターに助けを借りながら、なんとかやってきました。
一方、職場でも仕事が変わったりと、いろんなことがありました。
振り返ってみると、悩んだことや困ったこともたくさんありましたが、一つひとつ、なんとか対処しながら、気がついたら乗り越えているという感じです。

編集部:辞めたいと思ったこともありましたか?

井上:なかったと言ったらウソになります。復帰直後はとくに、娘と離れるのはつらいし、仕事も私がいなくてもきっと回っていくでしょうし、「なぜ私は働くんだろう」と思うこともありました。自分の食い扶持くらいは稼ぎたいと思いましたが、「生きがい」と言えるほど積極的な理由があったわけでもありませんでした。
それでも仕事を続けてきて、決定的な理由が見つかったわけではありませんが、今は、仕事をすることは生きることそのものだと思えるようになりました。働き続けることに疑問や迷いはありません。

これから
子育ても仕事もするという人へ

編集部:これから働きながら母になることをめざす人たちに向けて、アドバイスはありますか?

井上:子育てと仕事の両立には、つらいときも楽しいときもあります。でも、子どもの笑顔や成長がそばにあれば、乗りこえられない壁はないと思います。
もし、両立を躊躇していたり、これから働きだそうと思っている人には「子どもといると楽しいことがいっぱいあるので、大変なことがあっても、楽しさの方が大きいから大丈夫!」と、エールを送りたいですね。
それから、産休や育休、職場復帰後の制度については、よく把握しておくことが大事だと思います。分からないことがあったときや困ったときは、組合でも行政の窓口でもいい、相談してみるといいと思います。