病気・予防接種
Q. 1歳7か月。頭蓋縫合早期癒合症と診断され、手術すべきかどうか悩んでいます。 (2014.9)
- (妊娠週数・月齢)1歳7か月
1歳7か月の男の子です。生後10か月頃から前頭部のちょっとしたふくらみが気になっており、1歳半健診で相談したところ、小児脳神経外科を紹介されました。受診したところ、かなり軽度の頭蓋縫合早期癒合症と診断され、手術をするか否かの判断を迫られています。正直なところ、できれば手術せずに済ませたい気持ちが強いのですが、医師から「手術しなかった場合のリスク」について詳しい説明がなく、ネットなどでも判断基準になるような情報が得られません。何を基準に、どう判断すればいいでしょうか。CT画像を見て医師は、「脳と頭蓋の間に余裕が少ない傾向が若干あるが、発達に悪影響があるかどうかは不明」だと言いました。現在のところ、子どもに気になる症状や発達の遅れなどはありません。
回答者: 多田裕先生
私たちの頭蓋骨は、頭頂骨、前頭骨、後頭骨、側頭骨などの板状の骨が組み合わさって形成されており、その骨と骨の継ぎ目を縫合線と呼んでいます。乳幼児期は脳の発育にあわせて縫合部分が成長し、頭蓋骨も大きくなっていくため、縫合部分は閉じられていない状態になっています。
通常、頭蓋骨は脳の発育が終了すると縫合が自然に閉じて1枚の骨になるのですが、何らかの理由で、脳がまだ成長し、頭蓋骨も大きくなっていくはずの時期に、縫合の一部、あるいは全部が閉じてしまっていることがあります。これが、「頭蓋縫合早期癒合症」です。
頭蓋縫合早期癒合症だと、頭蓋骨が脳の発育に応じて成長できないため、いくつかの問題が生じます。
まず、縫合が閉じている箇所が正常に発育できないため、頭の形が三角になったり、前後や斜めに伸びたりし、いびつな形になることがあります。また、頭蓋内腔が脳の大きさより小さいと、脳が圧迫されて運動発達や知能の発達に影響を及ぼすことがあります。しかし、頭蓋縫合早期癒合症があると、必ず脳が圧迫されて発達に影響が出るわけではありません。
そのため、頭蓋骨のどこが、どのくらい閉じているのか、将来どのような症状が予測されるのかなどについて、CT検査をしたり、これまでの頭囲の発育状況や、現在の発育・発達などを詳しく調べて、治療が必要かどうかを検討します。その結果、頭部の変形が顕著であるとか、そのことによる発達や健康への影響があると懸念される場合には、手術による治療を行います。この手術は決して簡単なものではありませんが、近年の手術や麻酔の技術の進歩によって安全に行える手術でもあります。手術が必要だと判断されたときは、主治医を信じて適切な時期に積極的に受けていただくことが重要です。
上記のようなことを踏まえて、このお子さんのケースをどう考えればいいのかを知りたいというのが、親ごさんのお気持ちだろうと思います。しかし、残念ながら、実際にお子さんを診察したり検査したりせずに治療が必要か否かを判断することは困難です。
ご質問を読む限り、癒合症の程度や症状は軽いようで、手術をためらう親ごさんのお気持ちもよくわかります。手術は十分な説明を受けて、納得したうえで受けることが重要ですし、頭蓋縫合早期癒合症の手術は脳外科、形成外科、麻酔科、小児科などが協力して行う治療で、各分野の専門医に総合的に判断してもらうことが安心につながるとも思います。手術が必要かどうか判断できない、あるいは、手術に不安や疑問があるという場合は、これら複数の診療科がチームで治療にあたっているような、頭蓋縫合早期癒合症の治療経験が豊かな病院(小児病院など)で、もう一度、相談してみたうえで処置を決められることをお勧めします。