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発育・発達

Q. 5歳と1歳の息子たちが自閉症スペクトラムです。親ができることはありますか。 (2014.10)

  • (妊娠週数・月齢)1歳7か月
  • (妊娠週数・月齢)5歳

5歳と1歳9か月の息子がおります。上の子は半年前に自閉症スペクトラムと診断されました。下の子も先日の健診でひっかかりました。上の息子は、気になるものが目に入ると一目散に行ってしまい、そういうときはスイッチが入ったように制止を振り切り、止められません。また、食事中もじっと座れない、床や地面に寝転がる、高いところが平気で落ちてもあまり泣かない、急に怒り出してたたいてくる、などの気がかりがあります。サークルでもみんなと一緒に行動しません。でも、お友だちとかかわるのは好きなようで、自由に遊ぶときは違和感がありません。来月から市の療育に通う予定ですが、それだけでいいでしょうか。親として他に何ができますか。どのように育てていったらいいでしょうか。とくに下の子は、せっかく早くにチェックされたので、できる限りのことをしてあげたいです。アドバイスをお願いします。

回答者: 汐見稔幸先生

 そうですか。お二人がともに自閉症スペクトラムと判断されたわけですね。「自閉症スペクトラム」は、その人によって現れ方が実にさまざまなので、「虹のよう」というふうに最近命名され直したものです。脳が配線をしていくうちに、ちょっと違った配線をしてしまい、ノーマルな人とは少し違う情報処理の仕方をするようになったタイプです。ただ、どこの配線がどう違っているかは人によってさまざまなので、「スペクトラム」なのですね。「困った子」ではなくて、本人がいちばん困っているわけですから「困っている子」ですね。

 こうしたタイプのお子さんは、脳が途中で気がついて、「通常の配線がうまくいかなかったので別のところにたくさん配線した」という可能性があります。ですから、うまく伸ばすととても優れた能力を発揮することが多いといわれています。私などは、ある人が提唱した呼び方、「スペシャルタレントタイプのお子さん」と呼んでいます。

 こうしたお子さんは無条件にかわいいですね。ウソをつけないタイプといってもいいでしょう。ただ、「スペシャルタイプ」になるにはノーマルな人のコミュニケーションをある程度は身につけなければならないので、その点だけ親は努力が必要です。

 ご質問のお子さんの行動特徴は、スペクトラムタイプの子どもに多いものです。これを無理に、「ああしろ、こうしろ」としても無理だし無駄でしょう。対応する側が、お子さんの気持ちに付き合って、「あ、僕のことをわかってくれた」という関係をたくさんつくっていき、彼らの自尊感情を下げないようにすることが大事です。

 できれば、ひとりで遊んでいるときは、ああしろ、こうしろと指示するのではなく、親のほうがお子さんのやるとおりにしてみるといいかもしれません。やがて、お子さんの行動の「文法」が見えてくるはずです。急に怒りだしてたたくのではなく、彼の心が傷つく体験がその前にあるはずです。

 ノーマルタイプには通常のことが、スペシャルタイプのお子さんには迷惑なことがいっぱいあるのです。たとえば、スペシャルタイプの子は秩序意識がとても強いので、元のままの配置でないと不安になる可能性が高い子が多いですね。ですから、彼の周囲の空間は勝手に秩序を変えないようにしてあげてほしいのです。

 言葉を身につけるには、言葉には意味があるというノーマルな世界のことを理解しなければなりませんから、その練習はきちんとしたほうがいいと思います。それにはやはり専門の療育かスピーチセラピーを受けて、家庭でやってあげられることをお母さん自身が教えてもらい、それを家でしてあげるのがいいでしょう。

 ともかく、いくつか納得のいく療育の場をまわってみることです。幼いうちから始めたほうが効果が高い可能性はもちろんあります。脳が柔軟で、バイパス回路ができる可能性が高いからです。

 大事なことは、お母さんお父さんが過度に心配してぎこちない家庭をつくってしまわないようにすることですね。お子さんは自分が生きていることを祝福してくれる家庭をもっとも欲しているということを忘れないようにしてほしいのです。

 参考のために、門野晴子さんがお書きになった『星の国から孫ふたり バークレーで育つ「自閉症」児』(2005年/岩波書店刊)をお読みになるといいと思います。カリフォルニアで暮らす日本人妻のお子さん2人が、ご質問の場合と同じように自閉症なのですが、それを何とも明るく活き活きと育てておられる様子が伝わってきます。アメリカと日本の支援体制の違いに驚くかもしれませんが、ともかく、日本もこうした支援を行うことを目指すべきでしょう。

 それから、「こども家族早期支援学会」()という学会が立ち上がっています。ご相談のようなお子さんをおもちの家族を早期から支援していくための学会ですが、専門家だけでなく、実際に子どもを育てている保護者の方の勉強会も組織しています。ホームページを覗いてみてください。最近では「ティーチ」という支援手法が広がっていますので、そういう関係のわかりやすい本も探してみてください。

一般社団法人「こども家族早期支援学会」公式サイト
http://kodomokazoku.org