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病気・予防接種

Q. 生後10か月。乳糖不耐症の治療を始めましたが、発育に影響が出てしまいました。 (2015.1)

  • (妊娠週数・月齢)10か月

生後10か月の娘です。生後6か月から約4か月間下痢が続いて身長・体重が伸び悩んでおり、このままなら成長ホルモン測定を考えると言われていました。先日、別の病院にかかり乳糖不耐症が判明しました。治療を開始しましたが、経過が長くて成長に影響が出ているので急いだほうがいいと言われました。なぜもっと早く気づいてあげられなかったのかと、悔やまれてなりません。このように経過が長くとも治るのでしょうか。また、後遺症なく成長の遅れは取り戻せるのでしょうか。いまできる最善のことをしてあげるには、どうすればいいでしょうか。

回答者: 多田裕先生

 最初に、「乳糖不耐症」とはどのような病気か、説明しましょう。私たちは食物を食べ、消化管でそれを分解して吸収することで栄養を取り込み、活動のエネルギーにしたり、健康を維持したり、成長期の子どもであれば身体を発育させたりしています。とりわけ炭水化物と脂質、たんぱく質は三大栄養素といわれ、生命や健康を維持するためになくてはならないものですが、乳児期の赤ちゃんは、主に母乳やミルクに含まれる「乳糖」を腸でグルコースとガラクトースという物質に分解して炭水化物を摂取しています。腸で乳糖を分解して吸収するには乳糖分解酵素(ラクターゼ)という消化酵素が必要ですが、何らかの原因でこれが欠けていたり分泌が減少したりすると、乳糖が十分に分解できず、消化不良や下痢などの症状が現れるのが乳糖不耐症です。

 乳糖が分解されてできるグルコース(ブドウ糖)はエネルギー源として、またガラクトースはエネルギー源となるだけでなく脳などの成分としても非常に大切な物質です。これらが長期間にわたって不足すると身長・体重の伸びが悪くなったり、ときには脳の発育にも悪影響が出たり、また下痢が続くと炭水化物が摂取できないだけでなく他の重要な栄養素の吸収も阻害されるなど、赤ちゃんの健康にさまざまなダメージを与えます。

 この乳糖分解酵素が不足する原因は主に3つあります。ひとつが先天的なもので、生まれつきラクターゼという消化酵素が欠乏している赤ちゃんがいて、その場合、不足の程度にもよりますが、出生後間もない時期から下痢や消化不良の症状が続きます。

 もうひとつが二次的な原因によるもので、風邪などのウイルス感染などによって下痢が起こり、そのことで腸に炎症が生じて消化酵素が減少してしまう場合です。この場合には、原因疾患が治ればやがて下痢も無くなります。

 そして、3つ目の原因が加齢です。ラクターゼは乳児期にもっとも活性が高く、年齢を重ねると低下します。その程度には個人差がありますが、一般的に大人になるにつれて徐々に酵素の活性が低下して牛乳を飲むと腹痛や下痢をする人が増えてきます。

 さて、ご質問の赤ちゃんについて考えてみましょう。生後6か月から下痢が続いていたが、最近になって乳糖不耐症が判明したとのこと。ご質問には、それまでの経過や出生から現在までの発育過程が書かれておらず、また実際に赤ちゃんを診察していないので、乳糖不耐症の程度や原因について正確なことは申し上げられません。しかし、おそらく先天的にまったく乳糖が分解できないというような重症例ではないものと推察します。というのも、そうした場合には出生直後から下痢や消化不良が続いて、もっと早い時期に発育に問題が生じますし、下痢が続けば脱水症状が起きることもあります。小児科医の診察を受けていて、そうした症状が生後10か月まで見逃されるということはあまりないと思うからです。

 ただ、どのような原因であっても、いま乳糖が分解できず栄養を取り込めない状態なのですから、まずはきちんと乳糖不耐症の治療を受けることが大事です。治療は不足している消化酵素を薬として服用したり、乳糖が含まれないミルクを飲ませたりすることで、比較的短期間に症状が改善する場合が多いようです。このような治療で下痢が改善し、身長・体重の伸びを発育曲線に記したときに標準範囲の帯のなかに入っていくようなら、4か月間の発育の遅れは十分に取り戻せるものと思います。

 しかし、そうした治療をしても身長や体重の伸びがあまり改善されないという場合には、以前かかっておられた医師が指摘したように、乳糖不耐症以外の原因である成長ホルモンの不足などの合併症が隠れていることも考えられます。

 こうしたことから、まずは下痢の治療をしてもらい、その後は乳幼児期の発育に詳しい小児科医に主治医になってもらい、定期的に経過をチェックしてもらいながら、そのときどきに出てきた問題について医師とよく相談して治療法を考えていくのがよいでしょう。

 赤ちゃんの発育について継続的に見守っていくとき、母子健康手帳に掲載されている発育曲線が役立ちます。定期的に身長・体重を計測してその値をグラフに書き入れ、それを結んだ線が発育曲線に沿って伸びているかどうかを確認してください。赤ちゃんの発育は短期的に考えるのではなく、長い目で継続的に見ていくことが大切です。