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病気・予防接種

Q. 便秘で通院中の2歳の娘。なかなかよくなりません (2023.2)

  • (妊娠週数・月齢)2歳

2歳3か月の娘は、2か月ころから便の出が悪く小児科に通院中です。綿棒浣腸から始まり、マルツエキス、次に酸化マグネシウムを朝夕で飲み始め、現在も継続中です。便の調整でポリフルを飲んだこともあります。いったんは起床時に排便するようになりましたが、また出なくなることを繰り返し、排便のペースは週に2~3回程度です。酸化マグネシウムが増量されましたが改善されず、3日出ないと4日目に浣腸を使って排便させていました。2歳になる少し前に体調不良となり、そのときに便の薬が飲めなくなったのですが、薬を服用しなくとも週に3回ほど排便していたため、主治医にそれを報告してしばらく薬は飲ませず経過を見ていました。しかし、2~3か月すると便が固く排便の頻度もだんだん減ったので、2日出ないと浣腸を使うことになりました。酸化マグネシウムの服用も再開しましたがよくならず、ラックビーも一緒に飲むことになりました。「それでもダメなら…」とラキソベロンも処方され、毎夕5滴飲むことになりました。1週間飲んでも変化なく、再度受診して7滴になり、いまはようすを見ながら調整しています。連続11日軟便が出たところでラキソベロンを止めたところ、3日出ないこともあり浣腸を使用しました。娘は排便がなくてもすごく機嫌が悪そうとか痛そうなことはあまりなく、排便時も痛がるようには見えませんでしたが、最近になって、ときどき排便時に「おしり痛い」と言います。また、ラキソベロンをスタートしてから、便が出なくて気持ち悪そうなようすが増えました。なかなか改善しないので巨大結腸症等の病気が心配になり、主治医に尋ねたところ「そうならないように、いま対処している」とのこと。このままでよいのでしょうか?

回答者: 横田俊一郎先生

 経過の長い2歳のお嬢さんの便秘の相談ですが、このような相談はけっして珍しいものではありません。便秘に関する相談が増える中、2013年に日本小児科学会の分科会である日本小児栄養消化器肝臓病会が中心となって「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」を作成し、現在はこれに沿って治療することが勧められています。便秘症の治療については十分なエビデンスが集まっているとは言えませんが、このガイドラインにはそれが分かりやすく説明されています。また、新しい薬も登場しており、治療法は少しずつ進歩しています。

 解剖学的な異常や基礎疾患・全身的な病気に伴う便秘を除いたものを機能性便秘と呼んでいて、単純性便秘や習慣性便秘とほぼ同じ意味で使われます。慢性機能性便秘症の診断基準として使われている国際的な基準を表1に示します。

 治療目標は「便秘でない状態」に持ち込んで、それを維持することです。便が詰まっているときにはまず便塊を除去してから維持療法を開始し、便が詰まっていないときにはすぐ維持療法を始めることになります。

 便がどの程度詰まっているかは判断に悩むこともありますが、長く続く場合には大きな医療機関を受診してレントゲンや超音波検査などで確認することが必要です。ご相談のお子さんは何度も浣腸で排便させていますが、浣腸によって完全に便塊が除去されていない可能性も考えてみる必要がありそうです。

 便塊がなくなったら、薬による維持療法が始まります。治療は浸透圧性下剤から開始することが原則です。浸透圧性下剤は、主に下行結腸、S状結腸、直腸に作用して,腸管内で水分を吸収して腸内容の体積を増加させ、便を出しやすくします。便性を軟らかくし、排便時の痛みを軽減することが目標です。乳児期にはマルツエキスやラクツロース(モニラック)、幼児期以降 にはラクツロースやマグネシウム製剤(カマ)が使用されます。いずれの下剤でも効果が出るまでに数日かかり、十分な効果を上げるためには服用時に十分な水分を摂取する必要があります。

 浸透圧性下剤で改善しないときに刺激性下剤(ラキソベロンなど)が使われ、効果があることもあります。しかし、海外では便秘の再燃を防ぐために救済的に使われるだけで、短期間の投与が原則で乳児には勧められていません。ほかに、漢方薬が有効なこともあります。

 海外の研究では、浸透圧性下剤の1つであるポリエチレングリコール(PEG:商品名モビコール)がほかの下剤と比較して効果が高いことが示されていますが、日本では発売されていませんでした。これは大腸内視鏡の術前処置薬として使われている薬ですが、数年前から日本でも発売されるようになり、2歳以上の幼児で使えるようになりました。ジュースなどに溶かして飲ませることができ、私も患者さんに使っていますが、いままでの下剤に比べると明らかに効果は高いように感じます。ご相談のお子さんは、まだこの薬を使っていないなら試してみる価値はあると思います。

 大切なことは、治療薬の減量や中止が早すぎると再発しやすく、薬物維持治療には 通常6~24か月を必要とするということです。このことだけは十分なエビデンスがあると考えられていて、薬物治療開始から6か月以内に規則正しい排便習慣が得られる患児は約50%、2年以内に薬物治療を完全に中止できる患児は約50%と書かれています。

 ご相談のお子さんでは減量や中止が早すぎるのではないかと心配されます。下剤の量が多いと下痢になることはありますが、長期間の下剤使用によって薬が効かなくなり増量が必要になったり、習慣性が現れたりする心配はないことが、さまざまな調査からはっきりと示されています。安心して治療を続けてほしいと思います。

 大きな便塊のために肛門が切れたり出血したりして痛がることもありますが、痛みが強いと排便を我慢してさらに便秘の傾向が強くなりますので、便を軟らかくし肛門には薬を塗って治療することも大切です。

 食事についてもいろいろ工夫されていると思いますが、いままでの研究から「水分摂取を増やしても便秘が改善するかどうかは明らかでない」、「食物繊維の摂取を増やすことは勧められる」、「牛乳アレルギーが関係していることがあり、期間限定で牛乳を制限してみることが勧められる」旨が書かれています。

 巨大結腸症のような器質的な病気も心配されていますが、表2のような症状があるときには詳しい検査も必要となります。先天性巨大結腸症(ヒルシュスプルング病)という病気がありますが、これは生まれつき腸の神経が一部欠如していて動きが悪く、そのために便秘となって腸が拡張するもので、便秘が原因ではありません。確かに便秘が続いて便がたまると結腸は大きくなりますが、これは治療によって改善するものだということを知っておいてください。
以上説明が長くなりましたが、主治医とよく話し合い、根気強く治療を続けることが一番大切だと思います。

 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン

表1 4 歳未満の小児の診断基準(Rome Ⅲ)
表1 4歳未満の小児の診断基準(Rome Ⅲ)
表2 便秘症をきたす基礎疾患を示唆する徴候
表2 便秘症をきたす基礎疾患を示唆する徴候