Part 1
子育て中の方へ
執筆 横田 俊一郎(横田小児科医院院長)
子どもと最近の「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」
COVID-19の流行が続いています。次々と変異株が出現し、2022年9月時点で日本ではオミクロン株のBa5系統という変異株が大部分を占めています。この変異株はそれまでの変異株と比較して感染力がかなり強いものの、重症度が高いということはないようです。
流行初期には子どもは感染しにくく、感染者の中に占める割合も多くはありませんでした。しかし、第6波から子どもの感染者は増え続け、年代別陽性者数をみると、第7波では人口の多い30歳代や40歳代の感染者数と同じくらいになっています。園や学校での集団発生もめずらしくなくなっていて、子どもたちにとってより身近な感染症になってきたといえます。成人に比べると重症化する割合は少ないと考えられていますが、2歳未満の子どもでは比較的重くなる傾向があります。
オミクロン株になってからは、発病初期にのどの痛みを訴える子ども、おう吐を認める子どもの割合が増え、犬が吠えるようなせきをする子どもや熱性けいれんを起こす子どもが増えていることが報告されています。また、数は多くありませんが、心筋炎や心外膜炎という重い合併症を起こす子どももいます。
かかってしまったときに周囲へ感染を拡げないような配慮は必要ですが、基本的には軽症で治りますので、行き過ぎた心配や感染予防対策は必要ありません。また、教育・保育・療育などの施設での厳しい予防対策が、子どもの心身の健康に影響を与えていることも心配されています。
こちらもCHECK
日々の注意点(子どもの手の消毒、マスク等)
子どもにとって最も大切な感染予防対策は手洗いです。子どもはいろいろな所を触るので、どうしても病原体が手に付きやすく、そこから感染する可能性があります。COVID-19流行時には、今まで以上にこまめに手を洗うことは大切です。
マスクは感染している人のくしゃみやせきに含まれる飛沫を直接浴びないという点で利点がありますが、子どもは実際にはすぐに手でマスクを触ったりしますので、効果は限定的です。また、2歳未満の子どもではマスクをすることにより呼吸や心臓への負担になる、おう吐物による窒息のリスクがある、熱中症のリスクが高まるなどの危険が指摘されています。子どもの場合、元気なときや周囲に人が多くないときにはマスクをする必要はないと考えてください。
ただし、感染している人はマスクをすることで他の人へうつす機会を明らかに減らせることがわかっています。せきや鼻水、熱などのかぜ症状があり、他の人と接触するときにはできるだけマスクをするのがよいでしょう。
健診・予防接種
COVID-19に感染することを心配して予防接種を見合わせている方が多いことが問題となっていました。予防接種はかかりやすい年齢などをもとに接種時期が決められています。また、COVID-19と比較しても子どもにとってはより重い病気(たとえば麻しん)を対象としているものなので、接種時期が来たら早めに接種することが大切です。ほとんどの予防接種は個別接種となっていて、クリニックでは病気の方と時間帯を分けて接種している所が多くなっています。かかりつけのクリニックに問い合わせて早めに接種してください。
集団の乳幼児健診も、感染対策を行いながら継続されています。乳幼児が健康に発育しているかを医療・保健の眼でみることはとても大切ですので、必ず受けるようにしてください。クリニックで行われている個別健診は、予防接種と同じように病気の方と時間帯を分けて行われていますので、安心して時機を逃さず受けた方がよいでしょう。また、おうちでできるチェックポイントもありますので、まずはお子さんをしっかり観察し、おかしいと思うことがあれば早めにかかりつけ医を受診しておくのがよいでしょう。
こちらもCHECK
遊び・よその子とのふれあい
感染拡大を予防する新しい生活様式として3密(密閉、密集、密接)を避け、ソーシャルディスタンスを保つことが求められています。COVID-19にかかった人がせきをすると2mくらい飛沫が飛ぶので、他の人と2mくらい距離をとることが勧められています。感染していても無症状の人もいるので、COVID-19が流行しているときにはこのような対策は意味があります。しかし、子どもは群れて遊ぶことによっていろいろな能力を獲得し、成長していくものです。必要以上にソーシャルディスタンスを保つことは、子どもの発達に悪影響を与えるという意見がたくさん出されています。
こまめな手洗い、かぜ症状のある子どものマスク着用を継続しながら、子ども同士の触れ合いを制限しすぎないようにすることが大切だと考えられています。子どもの日常生活全体を見回して、どうすべきかを考えることが大事だと思います。
こちらもCHECK
祖父母やハイリスクの成人とのふれあい
高齢者や糖尿病などを持っているハイリスクの成人がCOVID-19にかかると重症化します。そのため、祖父母やハイリスクの成人とのふれあいは、子ども同士でふれあう場合よりは慎重に考える必要があります。感染症の症状がある場合には、ふれあいはやめた方がよいと思います。
子どもが元気で健康上の問題がないときであれば問題はありませんが、子どもが無症状でも感染しているという可能性も否定できないので、ふれあうときには大人側がマスク着用と手指の消毒はしっかりしておくことをお勧めします。
こちらもCHECK
コロナワクチンについて
5~11歳の子どもへの新型コロナワクチン接種が始まっていますが、まだ接種率が低いことが懸念されています。接種が始まって時間がたち、有効性と安全性に関する情報が増えてきました。とくに、小児におけるCOVID-19の重症化予防効果があることが各国で確認されていて、また発熱や接種部位の痛みなどの副反応がかなり少ないこともわかってきました。これらのことから、日本小児科学会は5~11歳の子どもへの新型コロナワクチン接種を推奨するという声明を出しています。他に予防や治療の手段がない状況ですので、ぜひ積極的にワクチン接種を検討してほしいです。
こちらもCHECK
※編集部注 乳幼児(6か月~4歳)への新型コロナワクチン接種については、インターネット相談室の こちらのページを参考にしてください
さいごに
日本はCOVID-19の第7波の中にあり、子どもの感染も増えています。一方でコロナワクチンの接種が始まり、感染拡大が抑えられる可能性も出てきましたが、これからも新型コロナウイルスとともに生きていく生活は続くと予想されます。
このような状況の中で、新型コロナウイルスにかからないことだけに集中せず、子どもが健康に発育・発達していくことにも注意を向けてほしいと思います。すなわち、画一的な方法で防御対策を続けるのではなく、地域の流行状況を考えながら、臨機応変に対応を変えていくことが必要です。子どもたちは表に出さないものの、心に大きなストレスを持っていることも示されています。子どもの心を思いやることが、大人には必要だと思います。
誰でも感染する可能性のある時期になってきました。COVID-19と共に生活していく知恵を身につけ、子どもたちが元気に生活できるという視点を忘れないようにしてほしいと思います。
こちらもCHECK
※2022年9月15日にご寄稿いただいた原稿です。