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発育・発達

Q. 生後2か月半。聴覚スクリーニング検査で聴覚に問題があると言われました。 (2013.1)

  • (妊娠週数・月齢)2か月

生まれて2か月半の女の子です。出産後に聴覚検査ができず、生後2か月半後に自動ABR検査を受けたところ、「リファー」反応が出ました。右耳は聞こえず、左耳は大きな音のみに反応しました。自動ABR検査の結果を見て、医師から「鼓膜は異常ないが内耳に問題があるかも知れない」と言われました。しかし、検査を受けた病院の次の診療日が3か月先で、時間があいてしまうのが気がかりです。早く診療または治療しなくて大丈夫でしょうか。現在体重は約7,000gで、あやすと声を出して笑います。次の診察までに何かすべきことなどはありませんか。

回答者: 多田裕先生

 赤ちゃんは生まれた直後からご両親の語りかけをはじめ、五感を通じたさまざまな刺激を受けることで、言語の基礎となるイメージを脳に蓄積していきます。脳のなかでそのイメージと音が結びついたとき、自らも言葉を話すようになりますが、そのためにはなるべく早くから脳に音の刺激を与えてあげることが重要です。

 新生児聴覚スクリーニング検査は、この言葉の基礎となる乳幼児期の聴覚に何らかの生まれつきの障害や問題がある赤ちゃんを、ひとりの漏れもなく見つけ出したいと10年あまり前に導入された検査です。

 私たちが音を聞き分けることができるのは、耳から入ってきた音によって鼓膜が振動し、それが耳小骨に伝わり、内耳の細胞が揺れ、その揺れが電気信号となって脳に伝わるためで、脳波を調べると耳が聞こえているかどうかがわかります。

 ご質問にある「自動ABR検査(AABR)」とは、機械を用いて自動的にこの脳波を読み取り、赤ちゃんの耳が聞こえているかどうかを判定する簡易検査で、はっきりと耳の聞こえが確認できたときは「パス」、聞こえていることがはっきりと確認できないと「リファー」と判定されます。全員の子をふるいにかけるスクリーニング検査であることから、「リファー」の範囲を広くとってあることが特徴です。

 聴覚検査にはもうひとつ、耳音響放射法(OAE)という方法もあり、これは内耳の細胞が振動するときに出る微かな音を拾って赤ちゃんの聴覚を調べる検査です。一般的に、OAEの方がリファーとなる率が高いので、その後AABRでもリファーなのかを確かめることが多いのです。

 ただ、新生児聴覚スクリーニング検査で「リファー」となった赤ちゃんのうち、ほんとうに聴覚に問題がある子は約1割だといわれています。というのも、赤ちゃんの聴覚は出生直後には羊水の影響があり、たとえその時点で聞こえが悪くても、成長するにつれて聴覚も発達していくので正常になることがあるからです。従って「リファー」の赤ちゃんは発育の経過を見ながら「聴性脳幹反応:ABR」と言う脳波を用いた聴覚の検査を行い、検査結果が繰り返し異常の場合には、さらに詳細な検査を行って聴力障害の診断をします。

 ご質問の赤ちゃんの場合ですが、生後2か月半で受けた検査で片方の耳の聞こえに問題があると言われたとのこと。前述したように、赤ちゃんがスムーズに言葉を獲得していくために早い時期から音の刺激を脳に伝えることが重要ですが、その意味では片方の耳が聞こえていれば問題は少ないともいえます。しかし、そちらの耳も大きな音で反応するとあるので聞こえの程度を引き続き経過を追って検査する必要があります。また、乳幼児期は中耳炎などにかかりやすく、よいほうの耳が感染症などで聞こえが悪くなるようなことがあると、音の刺激が入りにくくなってしまいます。

 こうしたことがないよう、きちんとした診断を受けてお子さんの聴覚にどんな問題があるのか、正しく知っておくことはとても重要です。そして、診断の時期はなるべく早いほうが望ましいでしょう。

 というのも、もしもお子さんの聴覚に問題が発見された場合には、さらに多角的な精密検査を重ねて、ほんとうに聴覚に問題があるのか、あるとすれば症状はどの程度のものなのかを調べて、専門施設での療育や補聴器の使用、療育効果が十分でない場合には人工内耳の装用など適切な処置を考えなくてはなりません。言葉の発達を考えると、遅くとも1歳までにはその子にあった対応を考えてあげることが望ましいため、診断のための受診は6か月頃までのほうがいいのです。

 次の診療日が3か月先とのことですが、診察を受ける病院は小児の聴覚について専門的な検査ができるような医療機関でしょうか。そうした専門機関なら、問題があったときには速やかに次のステップに進めますが、そうでないと、さらに専門的な検査を受けるために改めて病院を受診しなければなりません。片側なのであわてる必要はないとも思われますが、現在の月齢から考えて、なるべく早く専門の医療機関に相談されることでご両親も安心されるのではないかと思います。

 その一方で、いましておられように赤ちゃんに話しかけたり、あやしたりする豊かなコミュニケーションを続けてください。また、外の風や光を感じたり、花や動物を見たり、香りをかいだり、五感を使うさまざまな刺激を与えてあげましょう。そうした乳幼児期の豊かな体験は、聴覚に異常がある場合にも無い場合にも赤ちゃんの心身の健やかな発達を促し望ましいことです。