病気・予防接種
Q. 緊急帝王切開手術で生まれた娘が胎便吸引症候群だと言われました。 (2013.5)
- (妊娠週数・月齢)0か月
出産5日目の娘のことで相談します。妻39歳。人工授精ではじめての子を授かりました。予定日を10日過ぎた日、妻は微熱があり、夕方陣痛があって病院に行って検査をしていたところ、赤ちゃんの心拍が60くらいまで下がったため(術後の話しでは9分位)、緊急で帝王切開を行いました。その後の説明で胎便吸引症候群だと言われました。産後泣き声は小さく、長く泣けません。目は開けることができ、からだも動かせ、6時間後には妻のおっぱいを吸わせることができました。2日目に38度の熱があり、3日目に36度まで下がりましたが、今度は上がらなくなって温めてもらい保育器を出ました。しかし、心拍は不安定です。4日目の血液検査では炎症の数値がよくなっているそうです。現在はNICUには入っておらず、人工呼吸器も一度も使用していません。娘はどの程度の症状でしょうか? 詳しい説明や定期的な報告もなく、不安でたまりません。
回答者: 多田裕先生
何のトラブルもなく生まれても、生後間もない赤ちゃんの健康や発育について親ごさんはさまざまな心配をするものですが、ようやく授かった赤ちゃんにトラブルがあったとのこと、さぞご心配のことと思います。
最初にぜひお伝えしたいのですが、そうした赤ちゃんの状態について主治医に説明を求めたり質問したりするのに遠慮はいらないと思います。もしも主治医が処置中で手が離せないとか忙しくて時間がないときは、看護師を通じて説明をしてもらいたい旨の希望を伝えてください。医師は必ず時間を取ってくれるはずです。生まれたばかりの赤ちゃんの状態や病気について親ごさんが知りたいと思うのは当然のこと。詳しい説明をする手間や時間を惜しむ新生児科の医師はいません。どうぞ遠慮なさらず、疑問や心配な点について質問してください。
さて、ご相談の赤ちゃんの健康状態を考えるにあたって、まず胎盤の機能と役割についてお話ししましょう。
母親の胎内にいるとき、赤ちゃんは胎盤から臍の緒を通じて供給される血液中の栄養と酸素を受け取る一方で、自分では処理できない老廃物や二酸化炭素を母体に渡してお母さんの腎臓や肝臓で処理してもらいます。こうした胎盤の働きによって胎児は発育していくのですが、予定日前後になると胎児が必要とする量と胎盤から供給される量のバランスが崩れ、栄養や酸素が不足することがあります。
これが「胎盤機能不全症候群」で、栄養が十分に供給されないため体重が増えなくなったり、ときには減少してしまうことがあります。また、酸素不足が続くと赤ちゃんは苦しくなり、本来なら出生後に出るはずの胎便が出てしまい、羊水が便で汚れてしまうことがあります。これが「羊水混濁」で、さらに苦しくなると羊水のなかで大きな呼吸様の運動をしてしまうので、胎便で汚れた羊水を飲み込んで、それが肺の一部に詰まってしまう場合があります。これが「胎便吸引症候群(MAS)」です。
また、胎内で臍の緒から供給されるはずの酸素が不足すると、赤ちゃんの心臓の働きが低下し心拍がゆっくりになります。その状態に気づかず処置が遅れると、最悪の場合は死産になることがありますが、ご相談の場合は主治医の適切な判断のもと迅速に帝王切開手術が行われ、無事に生まれてくることができたものと思います。
一般的に、胎便吸引症候群の赤ちゃんは酸素が十分にとれないため保育器に入れて酸素を使い、重症ならば人工呼吸器を必要とします。軽快して自発呼吸で十分に酸素がとれるようになったところで保育器から出します。ご相談の赤ちゃんも「保育器を出た」とありますから、すでに自分で酸素がとれるようになっているのだと思います。また、人工呼吸器も使わずNICUにも入っていないとありますから、それほど重い症状ではなかったものと考えられます。
胎便吸引症候群は感染の心配もあり、今回のケースでも発熱や体温低下があったことから感染の疑いもあったのだと思いますが、血液検査で炎症を示す数値が改善されたのなら、これも良くなって状態が落ち着いているのだと推察します。
赤ちゃんの実際の健康状態については主治医の先生に説明していただく必要がありますが、前述したような理由から、あまり心配せずおおらかに成長を見守っていこうと考えていただいてよいように思われます。