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子どものこころを育てる 7

赤ちゃん時代には母親だけが、
大事ということですか?

 確かに赤ちゃんは、愛情深く世話をしてあげなければなりません。
 しかし、母親が世話をする唯一の人ではありません。赤ちゃんの最初の愛着要求の対象は、絶対に母親でなくてはならない、ということでもありません。実際、愛着要求の相手はお父さんやおばあちゃん、ときには隣に住むお姉ちゃんであったなどとも報告されています。しかもそれで発達に不都合がおこるということもないのです。
 赤ちゃんが誰を一番「大事な人」「気に入っている人」としているかは、赤ちゃんを観察してみるとわかります。その人があやしたときだけ、いつも以上に大喜びする、その人がいないと泣いて呼んだり、世話をされるのもその人でなければ、ダメといったぐあいです。

赤ちゃんの愛着は
「誰か」がこころを込めて世話をすることで
自然に育っていきます

 これまでは、人の愛着要求は生まれたのちに獲得されるのだと考えられていました。おなかがすく、おっぱいをもらうという生理的な要求が満たされる中で、はじめて愛着要求も育つのだ、と。だとすると最初の愛着要求の相手、つまり「この人!」という思いを向ける相手は授乳するお母さん、ということになります。でも、現実にはお母さんが相手とは限らない…。これはどういうことでしょう?
 実は、赤ちゃんは「この特別な人」を自分で選んでいるのです。それがだれかわかるのが、だいたい生後半年を過ぎたあたり。つまり、赤ちゃんは半年以上かけて、人選をしているのです。
 もちろん、それは「こころを込めてお世話をしている人たち」の中からです。 赤ちゃんはもともと能力が高く、とりわけ人と結びつきやすい性質を、生まれながらにして持っています。生後すぐから人間に関心を示し、じっと見たり、動くと目で追ったりするのもそうですし、抱かれると自分から抱かれやすいように姿勢をととのえたりするのも、その性質のあらわれです。
 こうした赤ちゃんの性質は、世話をする人に「かわいい」「お世話してあげなくちゃ」などという気持ちや張り合いを持たせてくれます。それで、赤ちゃんと世話をする大人のやりとりはスムーズになっていきます。つまり、愛着要求は「学ぶ」のではなく、ほとんど自然に引き出されているのです。お母さんでなくてもかまわない、誰かがこころを込めて世話をすれば、それで赤ちゃんの愛着要求が出てくる、というわけです。
 では、そうした人たちの中で、とりわけ「この人じゃなきゃ!」と最初に赤ちゃんに選ばれるのは、どういう人でしょう。

選ぶのは赤ちゃん。
「母親なんだから」と背負い込みすぎなくていいのです

 興味深いのは、こころを込めて世話をする人が何人かいても、初めに「この人!」と選ばれるのは、たいていひとり、せいぜいふたりということです。保育所の赤ちゃんはむろんのこと、お母さんが母親業に専念している家庭の赤ちゃんであっても、実際にはさまざまな好意を持つ人たちのお世話を受けているわけです。その中でひとりあるいは数人が、赤ちゃんの愛着の相手として選ばれる可能性があるわけです。母親専業で世話をしても、2、3割の赤ちゃんは、最初の愛着の対象として母親を選ばなかったという、イギリスでの研究報告もあります。
 つまり、母親でなければと強調する必要も、また「自分の責任」とお母さんがすべてをひとりで抱え込むこともないのです。お父さんでもおばあちゃんでも、また保育所の保育士さんでも、数人の人々が代わりあって赤ちゃんの世話をしてかまいません。多くの人の手や知恵を借りながら、楽しく子育てしたいものです。

愛情を持って世話をするのは大事ですが、
絶対に母親でなければ、
ということはありません。

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