赤ちゃん & 子育てインフォ

ホーム連載・読み物 インタビューシリーズ第3回 野島恭一さん

インタビューシリーズ:親も子もトライ&エラー

日々、親ごさんと接しているかたや、子育て奮闘中のかたにお話を伺っていきます。

シリーズ第3回
妻も自分も立場は同じ
育休は、特別なことじゃない

野島恭一さん

野島恭一さん
プロフィール
中学校教員

男性で育児休業を取得する人は、まだ少数派です。厚生労働省が平成16年に発表した数字では、女性70.6%に対して、男性は0.56%でした。
そんななか、育児休業を取得されたお父さん、野島恭一さんにお話を伺いました。

2007年6月13日掲載

「どちらが夕飯をつくるか?」
というところからスタート

編集部:何番目のお子さんのときに、育児休業を取られたんですか?

野島:2番目の子のときです。最初の10か月までは妻が、10か月から1歳までの2か月間に、僕が取りました。いまから10年前です。

編集部:取ろうと思ったきっかけは?

野島:最初に上の子が生まれたときは、何の疑問もなく妻が産休と育休をとりましたが、2人でどのように仕事と家事育児をこなすのかという日々の葛藤を通して、「次は、育休を取ろうかな」と思うようになっていました。

編集部:葛藤というのは?

野島:共働きなので、結婚後すぐ、「家に帰ったら、どちらが夕飯を作る?」というところから始まりました(笑)。妻も私も中学校の教員で忙しいのはどちらも同じ。最初の1週間で、自分がいかにわがままに育てられてきたか、気づいたんです。何でも「親にやってきてもらった自分」と、「自分でやってきた妻」・・・・・・次第に、無意識のうちに、おかしいなと思うようになりました。

育休のころ
育児休業を取った頃の写真

編集部:「おかしいな」と思わない人もいますよね?

野島:一つ駒が動きだすと、見えてくるという感じかな。うちの場合は、両方ともフルタイムだったことが大きかったと思います。ぜったい闘いになる(笑)

社会から取り残されたような
ブルーな気持ちに

編集部:実際に育休をとってみて、いかがでしたか?

野島:よかったと思います。すべてが財産になっていて、何がいちばんとは言えないのですが、今思えば、社会から取り残されたような、ブルーな気持ちになったことも貴重な体験でしたね。

風景1

編集部:どんなとき、ブルーな気持ちになりましたか?

野島:夕方の3時くらいになると、窓の外から下校中の小学生の声や町のざわめきが聞こえてきて・・・・・・その時間になると、ほんとうに憂鬱になるんですよ。町の賑わいとは対照的に、アパートの1室に赤ん坊と2人きり。孤独をひしひしと感じて辛かった。

2か月後に仕事に復帰するとわかっていたから、あの世界を大事にできたけど、ずっと続くとしたら、耐えられなかったでしょうね。身をもってそういう心境を知ったことはよかった。僕の人生の中で、忘れることのできない体験です。

もし逆の立場だったら?
と想像

編集部:たしかに、体験してみないとわからないことですね。ほかには、何が印象に残っていますか?

野島:育休の1週間目に、僕がインフルエンザにかかったことですね。ほんとうは、僕が夕ご飯もつくっておかなきゃいけないのに、40度の熱でダウンしてしまった。そうしたら、妻がすぐに年休を取ってくれたんです。

これがもし逆の立場で、彼女が専業主婦で熱で倒れていたら、僕は何をしたでしょう? 「僕のごはんは気にしなくていいよ、外に食べに行くから」と言うだけだったかもしれない(笑)。果たして、年休をとったかなぁと。あのときは、彼女が休んでくれて、ほんとうに助かった。これも、体験しなければわからなかったと思う。

去年子どもたちと山登りで 1
昨年の山登りにて

編集部:「逆の立場だったら」と、いつも相手の立場を想像されてきたんですね。

野島:フルタイム同士で結婚したら、どんな男性も想像するんじゃないかな。そして、気づいて変わると思います。
だから逆に、結婚しない人が増えてきているのかもしれませんね。結婚して、子どもができてしまうと、変わらざるをえないから、お互いに踏み切れない。

僕だって、最初からこうだったわけではないですよ。ただ、専業主婦だった母が家族の介護で心身を壊したのを脇で見ていたので、当時から心のどこかで「性別役割分担はうまくいかない」と思っていた気がします。

編集部:はい

野島:単純に、よかった!と思える出来事もありましたよ。娘がはじめて歩いたのを見たのは、僕でした。うれしかったですね。

編集部:それは、うれしいですね!

仕事の評価は、気にならなかった、
両立のほうが大変だった

野島:僕は、子育ての本当の闘いは、育児休業が明けてから始まると思っています。
だって、子どもってすぐに熱を出すでしょう? そしたら保育園に駆けつけなくちゃいけないし、ふだんも時間に間に合うように迎えに行かなきゃいけない。PTAの役員も回ってくる。
保育園から連絡が入るたびに、妻と連絡をとりあって、切り抜けてきました。

編集部:育休を取ると決めたとき、周囲の反応はいかがでしたか?

野島:最初妻は「私の育休なのに」と嫌がりました(笑)。でも、僕の意志が変わらないのを見て「いいわ、あなたの思うようにして」と納得してくれました。僕の両親、特に母は、最後まで抵抗しましたね。「変わったことをしないでくれ、恥ずかしい」と。
一方、妻の両親は受け入れてごく自然に接してくれて、それが大きな支えになりましたね。

編集部:職場での反応は?

野島:上司は、「女性保護のために育休があるのに、なぜ男のお前が取るのか?」と、かなり抵抗感があったようです。制度上は認めざるをえないけれど、気持ちの上では認められない。「野島はどうかしている」と思われていたようです。

去年子どもたちと山登りで 2
同じく、昨年の山登りで

編集部:「仕事で、評価がマイナスになるのでは・・・」と気になりませんでしたか?

野島:気になりませんでしたね。自分の仕事は、出世で図れるものとは思っていなかったから。
それよりも、育休明け後、実際の仕事と育児のやりくりのほうが大変でした。

編集部:たとえば?

野島:生徒指導とお迎えが重なったときが、いちばんつらかったですね。「生徒が公園でケンカした」という連絡が入っても、保育園のお迎えが重なったら、アウトです。

仕事のピンチは
チームで切り抜けた

編集部:どのように切り抜けましたか?

野島:現場の生徒指導は同僚に任せて、お迎えに行きました。職員は、だいたい5〜6人のチームで動くんです。そのときは駆けつけられなくても、あとで家庭訪問をする・・・・・・といった事後処理を担当するようにしました。

編集部:なるほど。

野島:仕事というのは、「すべて自分でやらなくては」・・・・・・と思ったらダメですね。そう思ってしまったら、休めませんし、何よりも、自分の子どもが育たなくなってしまいます。

風景2

編集部:チームという話題が出ましたが、チームがうまくいくコツはありますか?「○○さんは子どもを理由に休んでばかり」と、責める人がいたらどうでしょうか?

野島:たしかに、うまくいくチームとそうでないチームはあるでしょうね。僕は、チームがうまく動くかどうかは、メーンバー構成やリーダーシップにかかっていると思います。メンバー構成は、老若男女、入り混じっているほうがいい。リーダーシップは、「きょうは彼が大変だから、代わってあげて」と、うまく按配できる管理職の存在が必要だと思いますね。

老若男女、いろんな立場の人がいるほうが
世の中、うまく回る

野島:僕の今のチームは、ちょうど、老若男女のバランスがいいんです。9人のうち、子育て中が2人、独身の若い人が3人、障害者や老親を見ている職員が2人・・・というふうにね。いろいろな人がいたほうが、結果的には、うまく回ると思います。

編集部:ええ。

野島:若くて独身で、時間に関係なく仕事ができるメンバーばかりが揃っているからといって、そういうチームが強いわけではない。案外、壊れやすいと思います。
なぜなら、一見、生産性が高そうに見えても、実は、社会の再生産ができないわけで、いつか滅んでしまうんじゃないでしょうか。
長い目で見て、健康的な生活を送ったり、家族の幸せを考えられるような世の中こそ、生産性が高いと思います。

子どもたちは
関わってくれる大人を望んでいる

編集部:いろんな立場の先生がいることは、子どもたちにとってもプラスですか?

野島:それはプラスになりますね。先生に限らず、地域社会のいろんな人が、子どもに関わったほうがいい。社会は、「いまどきの若者は」と言うだけで、直接関わろうとしませんが、子どもたちは、批評や批判は必要としていない。ちゃんと正面から向き合って関わってくれる人を望んでいます。

今年、娘さんと
娘さんと。最近撮った写真

編集部:そういう意味では、野島さんが育休を取って体験されたことの意義は大きいでしょうね。

野島:授業でも、自分の体験とことばで、社会の課題や問題意識を伝えています。

3年生の最初の公民の授業で、現実の生活をどう生きていきたいか、聞いてみるんです。「将来、就職して、恋愛して、結婚して、そこまでは想像つくよね。じゃあ、結婚して最初のご飯はどうする?」と。

編集部:どんな答えが返ってきますか?

野島:「私は働かないわ」という女子生徒も多いですね。「子どもが寂しいから」と。でも、掘り下げて聞いていくと、両親の絆が本当につながっていないことからくる寂しさであって、働いているかどうかは問題ではなかったりする。
「2人で協力してやっていく」という生徒もいる。でも、頭ではそう思っても、実際、その場になってみないと、どんな行動に出るかはわからない。とにかく、考えてもらうことに意味があると思っています。

相手を尊重すること、
育休は、その延長線上にある

編集部:今度、3人目のお子さんが生まれるそうですね。

野島:予期していなかったことで、2人で悩みましたが、産む以外の選択は考えられませんでした。授かったら、育てる、と。

編集部:3人目の育休についても、ご相談されましたか?

野島:どう取るか、取り方はまだ悩んでいます。学校は1年が一区切りですので、来年の3月までは彼女が育休をとって、4月からは僕が1年間とるのがいいのかな。まだ決められない。今はとにかく、無事に生まれるかどうかです。
僕も今年から学年主任という管理職なので、今も本当に悩んでいます。しかし、責任を放棄するのではなく、仕事はチームで対応するんだと、考えることが大切だと思っています。

仕事については、彼女も同じ悩みを抱えているわけですから、彼女だけに大変な思いをさせるわけにはいかない。働きたいのは、僕も彼女も同じです。

風景3

編集部:制度の問題ではなく、2人の意識の問題だと?

野島:もちろん、社会的な制度や通念の壁は大きいでしょう。でも、制度が変えられないから人が変わらないのではなく、制度以前に、お互いのかかわり方を変えられなかったら、それは、パートナー同士の失敗だと思います。

編集部:ある取材記事で、「育休を取りますか?」という問いに、男性が「評価に響くから取れない」と答えていましたが、評価に響くのは女性も男性も同じですよね。

野島:そうですね。たとえば、妻が「私は働かない」、夫が「僕が働いて稼ぐ」と、双方が納得して望むなら、それはそれでいいと思います。でも、妻が「評価に響く」と嘆いていたなら、話は別ですよね?

恋愛して結婚した2人がハッピーに暮らすためには、どうすればいいか? そう考えると、答えはおのずと出ますよね。お互いの気持ちを尊重するしかない。それが、男女の役割分担という固定観念に絡めとられてしまっては、いけないと思います。