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ホーム連載・読み物 インタビューシリーズ第5回 諸富祥彦さん

インタビューシリーズ:親も子もトライ&エラー

日々、親ごさんと接しているかたや、子育て奮闘中のかたにお話を伺っていきます。

シリーズ第5回
理想にとらわれすぎないで
ハッピーな子育てを

諸富祥彦さん

諸富祥彦さん
プロフィール
明治大学文学部教授

赤ちゃんが生まれると、遠方の知人友人とは、なかなか会いにくくなりますね。とくに出産直前まで働いていて近所づき合いがないと、すぐに地域にとけ込むのは難しい。その一方で、ママ友とのおつき合いの難しさを実感したり、「子どものために」交友関係を広げなければと焦りを感じます。
そこで今回は、臨床心理士でもあり、子育てや教育に関する著作の多い諸富祥彦さんに、親同士や子どもの友だちづくりについて、お話を伺いました。

2007年8月14日掲載

子育ては「なるようにしかならない」
と考えてみましょう

編集部:ここ数年、世の中で「コミュニケーション能力が大切」と盛んに言われているせいか、「子どもに友だちをつくってあげなくては」「そのためには自分もおつき合いを広げなくては」と、焦りを感じる親ごさんが多いようです。

諸富:「友だち100人つくろう」とか、プレッシャーをかける風潮がたしかにありますね。

とくに子育て中は、いろいろな理想を抱いて自分で自分にプレッシャーをかけてしまいがちです。でも、大切なのは、子育ては「なるようにしかならない」と思うことです。


編集部:それはどういうことですか?

諸富:理想に縛られすぎないようにしましょう、ということです。理想を持つことは決して悪いことじゃないけれど、理想に縛られてはいけない。

たとえば、もともと友だちづくりの苦手なお母さんの子どもは資質的に、友だちづくりが苦手かもしれない。でもそこで、「友だちがいっぱいいることがよいこと」と親が思えば、その考えはお子さんにも伝わるし、子どもにとってプレッシャーですよね?

理想にこだわることが、逆に問題を引き起こしていると言ってよいでしょう。

編集部:問題というのは?

諸富:たとえば、子どもが引っ込み思案であればあるほど、親が友だちづくりを無理じいすると、子どもにとってプレッシャーになります。子どもはつねに、親の期待に応えたいと思っているので、それに応えられない自分はダメだと思ってしまうんですね。
親が自分の理想や欲にこだわって、お子さんを犠牲にするのはやめましょうと言いたい。

もちろん、ほかの子と触れ合う「場」をつくってあげることはよいことですが、お子さんのペースを尊重することが大事。まずは、子どもが「今、できること」に目を向けて、そこを伸ばしてあげてほしいと思います。

「子どもの友だちづくりは必要!?」 と
一度、自分の思い込みを疑ってみる

編集部:公園で、ほかの親子連れは仲良さそうにしているのに、自分たちはいつも親子2人きり・・・そんなときは「わが子の交友関係を広げられないのは自分のせい」と、落ち込みますよね。

諸富:たしかに、そう思うとつらいよね。

でも、そこから抜け出す方法はある。

たとえば、こんなふうに言い換えてみるんです。「ママ友だちがいなくて子どもの交友関係が広がらなくても、子どもにはいつか友だちができる。一生友だちができないわけじゃない」「友だちができないからといって、人間の値打ちが低いわけじゃない」と、考え方を変えてみる。

編集部:なるほど。ただ、考え方を変えるのはそう簡単ではなさそうですね。コツはありますか?

諸富:まず、つらいと思うことがあったら、自分の思い込みや理想を疑ってみることです。
「友だちがたくさんいたほうが社交性が育つ」と思っているとしたら、本当にそうかな? と疑ってみる。そして言い換えてみるんです。「友だちがたくさんいなくても、人との関係がつくれないわけではない」とね。

そもそも、社交性があってたくさんの人とおつきあいできることが本当によいことかどうか、わかりませんよ。社交性があればあったで、おつき合いに忙しくて自分の時間がなくなります。
「友だちがたくさんいると、コミュニケーション力がつく」と思っていたとしたら、「友だちが一人しかいないからといって、コミュニケーション力がつかないわけじゃない。限られた友達としっかりつきあうのも悪いものではない」と、考えてみる。

編集部:「小さい頃から人なれしておいたほうがよいのでは?」と思ってしまいます(笑)

諸富:もしかしたら、それも思い込みかもしれない(笑)。それがプレッシャーにならないならいいけれど、プレッシャーになるなら、その考えを疑ってみる。そして言い換えてみるんです。「小さいころから人なれしておくにこしたことはない。けれど、人なれしていないからといって、将来、コミュニケーション力がつかないわけではない」と。
実際、3歳くらいまでは、家族のつながりがあれば大丈夫。保育園や幼稚園に入れば、イヤでも同年代の子と一緒になれます。

大切なのは、親が無用なプレッシャーを与えないこと。親自身が不安がつよく、無理に友だちをつくらせようとすると、それが原因で、友だち嫌いな子どもになることが少なくありません。親の焦りが原因なのです。

編集部:そうやって考えを切り替えられると、気持ちも落ち着きますね。

諸富:子どもにとっては、身近にいる保育者・・・家庭だったら、お母さんやお父さんの心が安定していることが、何よりも大切です。親ごさんが自分を責めて暗い顔をしていたら、子どもも暗い気持ちになる。

子どもと2人で煮つまったり、心が不安定になったりするようなら、いっそ誰かに子どもを預ける方法を考えたほうがいい。一時預かりや、あるいは保育園に預けて働くことを視野に入れてもいいと思いますね。

無理に合わせなくていい
むしろ「孤独」の時間を大切にしたい

編集部:ママ自身、友だちができなければ寂しいし、逆に、ママ友との付き合いで疲れてしまう。そんな悩みもありますね。

諸富:寂しいという気持ちを抱くのは人間として自然な感情ですよね。でも、「友だちができない人間は、ダメな人間」「みじめ」と思う必要はない。

編集部:はい。

諸富:気の合う人と出会えなかったら、「友だちは、できるにこしたことはないけれど、たまたま、気の合う人と出会えなかっただけ」「あんなにキツイ人たちと友だちにならなくてラッキーだった」と考えればいい。だって、友だちが一人もできないわけじゃなくて、学生時代に友だちは1人か2人はいたでしょう?

グループのおつき合いに疲れるなら、ほどほどのおつき合いにしておけばいい。ほどほどが難しかったら、グループから抜けたほうがいいと思います。
グループの中にいると、そこが「すべて」になってしまいがちですが、実際は、みなさんの世界はもっと広いし人生も長いのですから。
ママ友はいて当たり前と、常識のように思っていると苦しい。でも、「周りに相性のよい人がいなかったら、友だちはできなくて当たり前」というのがむしろ常識かもしれませんよ(笑)

編集部:とくに女性は、小さい頃から「協調性を大切に」と言われて育てられてきて、人に合わせて無理にでもおつき合いを続けてしまう傾向があります。

諸富:それはあるでしょうね。でも、「合わせられたほうがいいけれど、合わせられないからといって協調性がないわけではない」ですよね?
大切なのは、「人に合わせる必要があるときには合わせる」と同時に、「人に合わせる必要が無いときには合わせない」こと。この両方が大事なのです。不安が強いと、必要のないときでも人にあわせてしまう。それが問題です

ひとりでいること、孤独でいることを、もっとプラスに捉えたほうがいい。
子どもにとっても、ひとりの時間は大切。むしろ、子どもの心がもっとも成長するのは、ひとりの時間だと思います。

編集部:ほんとうにそうですね。

自分がハッピーになれる考え方を
見つけよう

編集部:ただ、子育て中は、いつも子どもと一緒で、本当の意味でひとりの自由な時間を持ちにくい。そこがジレンマだと思います。
子どもができる前だったら簡単にできたこと・・・たとえば、一人で映画に行ったり、読書したり、考えごとをしたりといった、「ひとりを楽しむ時間」をなかなか持てない。
せめて、ママ友がいれば、いろいろな話ができて自分を取り戻せるような気がするけれど、実際はうまくいかないことも多い・・・だから苦しいのだと思います。

諸富:ほんとうにそうだと思います。
できるかぎり、ひとりになる時間をつくる工夫をしましょう。今は、子育てをサポートしてくれるさまざまな施設があります。
たとえば、今日は、イライラして子どもに当たってしまいそう・・・そんなときは、がまんして子どもと二人でいると、結局、子どもに悪影響を与えるだけ。むしろ、民間の施設に3時間あずけて、カラオケにいくなり、映画にいくなりして、思い切り発散する。学生時代の友達とおしゃべりする。
むりにママ友だちをつくらなくても、そうやってストレスを解消する方法もありますよね。

編集部:「自分が子どもを見なくては」と、預けることに抵抗感を持つ人もいますが、年中無休では疲れてしまいますね。

諸富:つらい気持ちが起きたら、その大半は、自分の「思い込み」や、世間一般の「常識」によって引き起こされていると考えていいでしょう。まずは、その思い込みや常識が本当に正しいのか、疑うクセを持ってみる。思い込み=非合理的な考えのせいで、自分をアンハッピーにしていることがあります。
そんなときは、自分がラクになれるような考え方に切り替えましょう。せっかく生まれてきたのですからハッピーに生きないとね。大事なことは、ハッピーに生きることですから(笑)、ハッピーになれないような考え方に捉われることはないと思います。