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ホーム連載・読み物 インタビューシリーズ第9回 諏訪利明さん

インタビューシリーズ:親も子もトライ&エラー

日々、親ごさんと接しているかたや、子育て奮闘中のかたにお話を伺っていきます。

シリーズ第9回
「親の欲目」大賛成!!
いちばんの理解者でいよう

諏訪利明さん

諏訪利明さん
プロフィール
海老名市立わかば学園園長/臨床心理士

「気性が激しくて、泣き出すと手がつけられない。どう対応したらいいの?」
あるいは
「おとなしくて引っ込み思案でいじめられそう。親の対応次第で積極的な子に育てられる?」
などなど、お子さんの性格や気質に悩み、育て方に迷う声がよく聞かれます。
「そんなときは、こういう対応を」
といった具体策はあるのでしょうか?
日々、たくさんのお子さんや親ごさんと向き合い、「育てにくい子」について相談を受ける機会も多い諏訪さんにお話を伺いました。

2007年12月17日掲載

子どもへの接し方にハウツーはない。
親と子で探すもの

編集部:子どもには、活発な子、おとなしい子・・・と、いろいろなタイプがありますね。
たとえば「気性が激しい子には、こんなふうに対応するとよい」といった、具体的な対応策はありますか?

諏訪:ないと思います(笑) たとえば、似たタイプの子が二人いても、「このタイプにはこういう対応」という、マニュアルはないと思うんです。
一人ひとり違う人間なわけですから、「こうするといいよ」というハウツーを伝えても、うまくいくとは思えない。
そういうのって、お母さんと子どもがつくっていくもの。日々悪戦苦闘して、探して、探して、見つけていくものだと思います。

編集部:先日、2歳の子のお母さんから、「ウチの子は一度気持ちがこじれると大声で泣きわめく。声をかけるとますます激しく泣くので、結局、放っておくしかない。でも、もっとよい対応策があるのでは?」という相談を受けました。

諏訪:たぶん、そのお母さんは、試行錯誤の末に、「放っておく」というやり方にたどり着いたわけですよね? そこに至るまでに、なだめたり、抱っこしたり、きっといろいろ試してみたことでしょう。それで、いちばんの解決法が放っておくことだったのではないでしょうか。
だから、そのお子さんの場合は、「放っておく」という対応がいちばんなんですよ(笑)

編集部:育児本には「根気よく言い聞かせましょう」とか、「子どもの心に寄り添った言葉かけを」などと書かれていて、それがうまくいかないと、自分はダメな母親だと思ったりします。

諏訪:その対応の仕方がその親子にとって、ほんとうにいいかどうかは、やってみないとわからないですよね。やってみてうまくいかなかったら、合わなかったということです。参考にするのはいいけれど、それがすべてだと思わないほうがいい。
お母さんは、自分が見つけたかかわりに、まずはもっと自信を持っていいと思います。

赤ちゃんって、泣くもの。
子どもって、わめくもの

諏訪:そもそも、赤ちゃんや子どもって、よく泣くものですよね。
もちろん、おなかが満たされたり、おむつを替えてもらって泣き止むこともあるでしょう。

それでもなお、泣き止まないこともある。だから、
「なかなか感情がおさまらなくて当たり前」
「泣き止まなくて当たり前」
と思って、赤ちゃんや子どもの泣き声とつき合うことが大切だと思います。
たしかに、そばでずっと泣いていられるのは辛い。でも、一筋縄ではいかないのが子どもなんですよね(笑)。

子どもの長所を見つけるには
ほかの人に教えてもらうのが、近道

編集部:親子で手探りしながら、よい対応方法を見つけるのは時間がかかりそうですね。

諏訪:簡単なことではありませんよね。
もともと、赤ちゃんが生まれて育っていくプロセスは、すごく大変なこと。決してラクなことではないし、そのつど対応を迫られる。小さな迷いの積み重ねで、しかも、さんざん迷った末にうまくいかないことも多い。
お母さんたちはみんな、ほんとうに一生懸命よくやっていると思います。
昔だったら、そういう迷いや不安に応えてくれる近隣の人たちがたくさんいたし、同じ立場のお母さん仲間もたくさんいたでしょう。
でも今は、親子の数が少なくなって、なかなか自然に出会うのは難しい。
だから、自分のやり方に疑問や不安を持ったときは、相談できる相手を積極的に求めていったほうがいいと思います。

編集部:それは、どういうことですか?

諏訪:たとえば、地域の子育て支援センターとか、保健所の担当保健師さんとか、自分がヘルプを求めるつもりで見回してみれば、気軽に相談できるところが見つかると思います。子育てを応援しようというムードは社会的にも整ってきているはずです。そういうところで、冷静な第三者の目に出会うということでしょうか。

誰かに、
「うちの子、じっとしていないし、わがままで大変!」
と言ったら、相手はもしかしたら、
「活発でいいじゃない! 自己主張ができてすごい!」
と言ってくれるかもしれない(笑)

欠点にしか見えなかったことも、ほかの人の目を借りると、別の視点から眺められるようになる。これは一人じゃなかなかできません。

編集部:なるほど……たしかにそうですね。

諏訪:逆もあります。親は「おとなしくて、じれったい」と思っていても、ほかの人から見ると「気持ちのやさしいお子さんね」と。

持って生まれた性質は、そう簡単に変わるものではないから、親の見方を、ちょこっと変えてみる。 それには一人で考えていても難しくて、ほかの誰かの目を借りることが役立つと思います。

わかってくれる人を「探す」
そして、たどり着く

編集部:頭の中では「活発でよい」と思えても、難しい現実に直面することもあります。たとえば、公園などで喧嘩になると、すぐに手が出てしまうとか、お友だちのオモチャが欲しくて我慢できないとか……そういうときはどうしたらよいでしょうか。日々の対応に困ることがたくさんあります。

諏訪:たしかに、子どもの行動は抑えがきかないことが多いし、まわりも「困った子」としか見てくれない場面はありますね。お母さんも大変だと思います。
そういうときは、わが子のことをわかってくれる人や仲間を探すことです。

編集部:わかってくれる人とは?

諏訪:やはり、専門の相談員さんとか、バランス良く子どもの姿を見てアドバイスがもらえるようなところですかね。
子どもの立場から考えてくれるような人だったら、家族も責められずにすむし、わかってもらえたって思うのではないでしょうか。

編集部:もし、相談先で「子どもが乱暴なのはあなたの育て方のせい」などと言われたらショックですね?

諏訪:もちろん、相談相手は選んでください(笑)。大切なのは、子どもと親と両方のことをわかってくれる人を「探す」こと、まず耳を傾けてくれる人にたどり着くことです。違うなと思ったら聞き流しましょう。

「親の欲目」バリバリでOK
いちばんの理解者でいてほしい

諏訪: ところで、理想論と言われそうだけど、僕はこう思うんです。
「子育て」という作業は、ほんとうに大変だし、消耗するし、疲れるけれど、決して「大変」だけでは終わらない。ちゃんとした手ごたえとして、返ってくるものがあると思うんです。
最初からモノわかりのよい子なんていないわけで、とくに年齢が小さいうちは、手がかかってしんどいけれど、それはぜったいにムダにはならない。手探りでぶつかりあいながら、子どもは必ず成長していく。
子どもは「よい面」と「悪い面」の両面を持っていて、親が子どものよい面を見たほうが、子どもは大きく伸びると思います。

編集部:でも、悪い面しか見えなくなることもあります。

諏訪:そういうときが「相談のしどき」。誰かに相談したりして、助けを求めたほうがいいと思います。

編集部:最近は情報が多く、気がかりなことを調べてみたら発達障害が心配になったということもあります。

諏訪:もし「成長している手ごたえが、なかなか感じられない」「子どもの行動が???でさっぱりわからない」と思ったら、これは迷わず療育センターなどに相談するとよいでしょう。

編集部:逆に、周囲が心配しているのに、親だけ「ウチの子は大丈夫、いい子だ」と思っていたら、それは過信?

諏訪:うーん、たしかに周囲とのバランスというのはあるでしょうけど。いいんじゃないですか、過信で(笑)。親の欲目バリバリでいいと思いますよ。
親は、子どものいちばんの理解者であってほしい。世間がみんな、その子に後ろ指を指しても、親だけは 「いいよ、あなたはあなたで。信じてるよ」と。そういう親の関わり方でいいんじゃないのかな。僕はそう信じているんですよ。