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ホーム連載・読み物 インタビューシリーズ第11回 なかやみわさん Part1(前半)

インタビューシリーズ:親も子もトライ&エラー

日々、親ごさんと接しているかたや、子育て奮闘中のかたにお話を伺っていきます。

シリーズ第11回 Part1(前半)
暮らしの中で感じたことを
絵本にこめて

なかやみわさん

なかやみわさん
プロフィール
絵本作家

今回のお客様は子どもたちに人気の絵本作家、なかやみわさんです。
Part1(前半)では、なかやさんが絵本づくりに託す思いを、Part2(後半)では、たくさんの絵本の中から子どもにどんな1冊を選べばよいのか、そのヒントを伺いました。

2008年6月30日掲載

編集部:最初に、絵本との出会いについてお話しいただけますか?

なかや:もともと絵本は好きでしたが、ほんとうに興味を持ったのは大人になってからです。子どもの頃からかわいいキャラクターや文房具類が大好きで、美大卒業後は、子どもに長く愛されるキャラクターをつくりたいと思い、キャラクター制作会社に就職しました。
でも、そこで目の当たりにしたのが企業社会の現実。何より売れることが第一で、長い時間をかけて準備し、愛着を持って発表したキャラクターも、大ヒットしない限り、2か月くらいで販売打ち切りになってしまう。とにかくサイクルが短いんですね。

そんなとき、改めて絵本売場をのぞいてみたら、私が子ども時代に大好きだった「だるまちゃんとてんぐちゃん」や「ぐりとぐら」が新刊のように並んでいて、子どもたちが夢中になって読んでいました。
「子どもたちに長く愛され楽しんでもらえる絵本って、なんてすてきなんだろう」と感動して。そんなことがきっかけでさまざまな絵本を読み漁るうち、「自分も描いてみたい」と思うようになったんです。

なかやみわさん

編集部:お話は、どのようにして生まれてきますか?

なかや:そらまめくんシリーズは、そらまめくんというキャラクターが先にあって・・・・・・実は企業デザイナー時代から、お豆のキャラクターはかわいいと思って温めていたんです。
そのころ、たまたま両親がやっていた家庭菜園で、本物のそらまめが収穫されて。そらまめって、皮は大きいのに中のお豆はすごく小さくてかわいいでしょう?ふかふかのベッドの中にいるみたいだなと思って眺めているうちに、ストーリーがふくらんできました。

そらまめくんのベッド
そらまめくんシリーズの1作目『そらまめくんのベッド』(発行/福音館書店)。「1作ごとにそらまめくんが内面的に成長していく姿を描いています」と、なかやさん。

編集部:この10年間で、そらまめ君のシリーズや、「くれよんのくろくん」シリーズなど、多くの絵本を発表していますが、お話は次から次へとわいてくるのですか?

なかや:次々とわいてくればいいんですが、残念ながら、10年もつくり続けていると、なかなか自然には浮かんでこない。最近は、日常生活で気になったことや、ニュースを見て感じたことをモチーフにすることも多いですね。

編集部:日常的に気になることとは?

なかや:たとえば、公園に行くと、知っている親同士だとにこやかに挨拶するのに、知らない相手には声もかけない人が、すごく多い。子どもに対しても、知っている子どもがブランコから落ちたりすると「大丈夫!?」と駆け寄るのに、知らない子だと知らんぷり。人の気持ちを考えられなかったり、挨拶もしないという場面にときどき出会います。
子どもたちが、そういう場面をお手本にするのか、あるいは反面教師にしていくのかわかりません。でも少なくとも、よいことは吸収して自分のものにする力は、持っていると思うんです。そこで、絵本では、読者が前向きに考えられるような、読んだときに元気がわいてくるようなお話を届けたいと考えています。

編集部:「くれよんのくろくん」は、なかなか減らない黒色のクレヨンを見て、お話を思いつかれたそうですね。この絵本を読むと、赤や青だけでなく黒も白も大切な色なんだ、誰もが大切でかけがえのない存在なんだという、なかやさんの思いが伝わってきます。

くれよんのくろくん
『くれよんのくろくん』(発行/童心社)

なかや:そう感じていただけたら、とってもうれしい。ただ、物語から何をどう読み取るかは、読み手にゆだねるほかはないことですし、自由な発想で読んでもらうことで物語が豊かにふくらんでいくとも思うのです。描き手としては純粋に読み物として楽しんでもらいたいし、メッセージや物語に込めた思いは、じわーっとボディーブローのように伝わってくれればいいなと。
あとで似た場面に出会って「そういえば」と思い出してくれればうれしいし、大人になっても心に残るような絵本をつくりたいと願っています。

編集部:絵本って、こちらの心境やそのときの状況によって、読むたびに違う読み方ができたり、いくつものメッセージが伝わってくることもあって、奥深いですね。

なかや:絵本のなかで、すべてを言葉や絵にして伝えることは不可能ですし、その必要もないでしょう。私も絵本のファンのひとりとして思うのですが、むしろ自分自身の体験が蘇ってきたり、登場人物の気持ちと私の思いが重なったりする余地がたくさんあるような物語こそ、世界を広げてくれるように思います。
私も1冊の絵本を通して、読者に豊かな世界を届けることができたら、うれしいですね。

なかやみわさん


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