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妊娠中の気がかり(体重・食事・病気・体調など)

Q. 妊娠16週。12週のときに甲状腺刺激ホルモン値が高いことを指摘されました。 (2016.2)

  • (妊娠週数・月齢)妊娠5か月 (16〜19週)

現在、 妊娠16週です。妊娠12週に受けた血液検査で、甲状腺刺激ホルモンが高いと指摘されました。TSH→4.25 FT3→ 2.67 FT4→1.00 。妊娠する半年前のTSHは1.43でした。いままで甲状腺の病気だと言われたことはありません。16週になっての血液検査の結果はTSH→2.91 FT3→2.74 FT4→0.91で、このまま1か月ほど様子を見るか、数日薬を飲んでみるかと言われ、チラーヂンS錠25ug を15日飲むことにしました。心配なのは、妊娠12週のときにTSHが高い数値だったのに、結果が出たのが後だったために薬を飲んでいなかったことです。赤ちゃんの知能や心臓、神経などの発達に障害や影響が出る心配はないでしょうか。現在、心拍や羊水量、発育などは順調です。

回答者: 安達知子先生

 結論から申し上げて、まったく心配いりません。
 甲状腺ホルモンはT4とT3の2種類があり、T4はヨードが4つ、T3はヨードが3つついています。甲状腺ホルモンは大切なホルモンで、人が活動するときに必須のホルモンです。

 甲状腺ホルモン、とくにT4の産生は、脳の下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモンTSHの働きで調整されています。甲状腺ホルモンが下がろうとすると、TSHがたくさん分泌されて血液中の甲状腺ホルモン値は正常に保たれますので、目立った甲状腺機能低下になるのは余程のときです。通常は甲状腺ホルモン値が明らかに低下しているときは、TSHは二桁から三桁と異常に上昇して甲状腺機能低下の症状を示します。また、「バセドウ病」などの甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモン産生がきわめて高くなるため、TSHは著明に低下して測定感度以下の値になることもあります。 

 甲状腺ホルモンは、妊娠中は、妊娠維持に必要な黄体ホルモンの産生や胎児の脳の発達などにも関与するといわれています。T4は甲状腺で作られ、T3は、一部は甲状腺で作られますが、その多くは体の末梢の組織で、T4からT3へとヨードが1つ取れて変換されることで作られています。T3はT4の3〜4倍も甲状腺ホルモン作用が強いといわれています。

 さて、甲状腺ホルモンは血液中ではほとんどは「甲状腺ホルモン結合タンパク」と結合して循環していますが、甲状腺ホルモンとしての作用はタンパクと結合していない遊離型のホルモン、すなわちFree T4(FT4)、Free T3(FT3)が発揮します。妊娠中は大量に作られる女性ホルモン(エストロゲン)の影響で、肝臓で結合タンパクが多く産生されるため、甲状腺もたくさんのホルモンを産生して遊離型のものを一定に保つように調整しています。

 一方、妊娠初期には胎盤からヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)と呼ばれるホルモンが大量に産生され、このホルモンにはTSHと同様の作用があるために、妊娠9〜11週くらいでは甲状腺ホルモンの産生がかなり高くなります。そのため、一時的に甲状腺を刺激しているTSHは低下し、hCGの産生が低下してくる妊娠12〜13週以降からまたTSHは少し高くなり、その後また正常範囲を推移します。妊娠中はややFreeの甲状腺ホルモンは低下気味に経過することも知られています。

 ご相談の場合は、まず12週のTSHの値は正常上限ともとれるわずかな上昇で、FT4とFT3は正常範囲ですので、甲状腺機能の低下はありません。16週はFT4はやや低く見えるかもしれませんが、TSHも正常のことから正常範囲と考えられます。妊娠前ももちろん正常値を示していますので、おそらく、hCGの変動に合わせて変化したものと考えます。

 従って、チラーヂンS錠を服用する必要もなかったと思いますし、12週のことを心配する必要もありません。チラージンS25μgは極めて少ない量なので、服用されても有害な作用はなく、自身でTSHの値をコントロールして甲状腺ホルモンの値は正常範囲を推移すると思います。まれに、橋本病と呼ばれる甲状腺機能異常を示す自己免疫性疾患があり、TSHも上昇したり低下したり、甲状腺ホルモンも低下したり上昇したりすることがあります。もしも、ご心配ならば、橋本病に特異的な自己抗体(マイクロゾーム抗体など)の測定をお願いしたらいかがでしょうか?