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妊娠中の気がかり(タバコ・アルコール・薬・レントゲンなど)

Q. 歯の神経が炎症を起こしています。臨月での治療は、胎児に影響がないか心配です。 (2018.10)

  • (妊娠週数・月齢)妊娠9か月 (32〜35週)

34週の妊婦です。歯ぎしりをする体質でマウスピースを使用していますが、先日夜中に左下奥歯に突然の激痛が走りました。近所の歯科医院に行くと、かぶせ物を取るしかないと言われ、応急処置としてセラミックのかぶせ物を削り、象牙質剥き出しの状態で産後に治療しましょうと言われました。その日の夜から頬が腫れ始め、翌日歯科医院に行くと「レントゲンを撮らないとわからないが、神経が腐って炎症を起こしているようなので大学病院に行ってください」と言われました。この時点で、頬は顔が変形するほど腫れ上がっていました。大学病院に行く予定ですが、臨月で神経を抜くようなことをしておなかの赤ちゃんに影響はないのか、麻酔や術後の感染症も含めて心配でたまりません。

回答者: 井上美津子先生

 妊娠後期になると胎児の発育も安定してくるので、歯科治療が胎児に及ぼす直接的な影響は少ないと考えられます。ただ、歯科治療時の態勢やストレスが母体に及ぼす影響の方が心配されます。歯科医師とよく相談して、無理のない状況で治療を行ってください。

 歯の痛みだけでなく、顔まで腫れてしまったとのこと、おつらいでしょうね。出産間近になっての歯科治療でご心配もあるかと思いますが、エックス線撮影や歯科麻酔、薬剤の服用など、胎児への影響はほとんどご心配のない時期になっておりますので、ご自身の身体への負担が少ないよう状況を整えて、出産前に必要な処置を受けられることをお勧めします。

 妊娠期の歯科治療では、レントゲン(エックス線)撮影や歯の麻酔、薬剤の服用などに関する不安をよく耳にします。

*レントゲン(エックス線)撮影は、歯の状態を確認するために歯科で通常行う場合は顎の部分に照射するので、照射域が子宮(胎児)から離れており、最近の装置では散乱線もカットされています。また、エックス線の線量も個々の歯を撮影するフィルムで0.01mSv/1枚ですので、ごく微量と考えてよいでしょう(日本人が日常生活の中で自然に浴びている放射線量は年間2.1mSvといわれています)。妊婦に対して撮影する場合は、防護用エプロンを使用して胸から腹部を遮蔽するので、さらに安心です。歯根の状態や根周囲の病気の状態を的確に診断するために、エックス線撮影は必要なものです。

*歯科で用いる麻酔薬は、通常は注射の形で歯の周囲に注入し局所で作用するもののうえ、使用量も1.0~1.8ml以内ですので、子宮内の胎児に影響を及ぼすことはほとんどないと思われます。痛みを我慢しての治療は、母体に大きな負担となりますので、麻酔薬で痛みをコントロールして、ストレスの少ない状態で治療を受けることが望ましいでしょう。ただし、以前に歯科麻酔でトラブルがあった(気分が悪くなった、発熱した、など)場合は、歯科医師と相談して、無麻酔下で応急処置をして出産後に改めて治療を行うなどの検討が必要でしょう。

*妊娠期は薬剤の服用に配慮が必要とされていますが、最も使用を控えたいのは胎児の主要器官が形成される妊娠初期です。歯科でも妊娠中は予防的な投薬などは避けますが、腫れたり痛みがある場合はそれらの症状を軽減するための薬剤投与を行います(有益性投与)。激しい痛みや顔まで腫れるなどの症状を改善するためには、歯科医師や薬剤師からよく説明を受けて、適切な薬剤を安心して服用してください。

 上記の通り、妊娠後期には歯科治療での胎児への直接的な影響は、あまり心配ないといえるでしょう。一方、妊娠後期でおなかも大きくなると、歯科治療を受けることでの母体の負担が大きくならないように配慮が必要となります。胎児が発育しておなかが大きくなると、座位でも横になる姿勢でも、歯科治療時の体勢が苦しくなるときがあり、長時間の治療はきついと思われます。また横になったときに胎児の重みで“仰臥位低血圧症候群(仰向けになったときに下半身の血液を心臓に戻す太い静脈が胎児で圧迫されて、急に血圧が下がる)”が生じやすくなります。歯科医師と相談して、なるべく負担の少ない態勢を工夫したり、途中で気分が悪くなったらすぐ休憩をとれるようにしたりして、治療を受けるとよいでしょう。

 まずは、エックス線写真から歯の状態を確認して、必要な処置について十分な説明を受けることと、顔までの腫れに対しては薬剤を服用して炎症を抑えることが大切だと思います。