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ホーム連載・読み物コロナ時代の妊娠・出産・子育てPart 2「妊娠中の方へ」

Part 2
妊娠中の方へ

執筆 安達 知子(恩賜財団母子愛育会総合母子保健センター愛育病院名誉院長・東京女子医科大学客員教授)

コロナ下での妊娠・出産

 妊娠中に新型コロナウイルスに感染しても、過度な心配はいりません。

 感染者数の増加に伴い、一定の割合で妊産婦の感染者は増加していますが、特に妊産婦が感染しやすいということはありません。死産、流産の頻度は低く、新生児感染は極めてまれで死亡例はありません。オミクロン株に置き換わっている現在、若い妊産婦への感染も増加していますが、ワクチン接種者の増加などで軽症にとどまりやすく、中和抗体および治療薬投与などで軽快しています。重症化は少ないものの、31歳以上、妊娠後半期の感染、肥満、基礎疾患として喘息を合併している場合などは母体が重症化する可能性が示されています。現在、変異株も進化しており、さらなる調査分析を行っているところですが、妊娠中も慎重な行動をする人が多い日本では感染率も重症化率も低いと考えられます。

 ただし、分娩時期にある妊産婦が感染した場合には、分娩施設によって、分娩方針、分娩様式、新生児との接触・同室や授乳などに関して、対応や制限が異なります。

 現在までの対応では、36週未満での感染で重症化しなければ、軽快後に通常の妊娠管理を経て出産され、36週以降の感染であれば、約60%が本感染症を理由として速やかに帝王切開で出産されています。26週以降36週未満で増悪傾向があれば、帝王切開による人工的な早産となります。また、新生児は、感染後2週間以内の出生では母児分離を行い、人工乳栄養が多い傾向です。


日々の生活の注意点

 新型コロナウイルス感染症は、2020年3~4月の第一波の全国での緊急事態宣言と5月の解除ののちも、第二~第七波までの反復する発生動向が認められており、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置、これらの解除などが全国の都道府県等で断続的に行われています。さらに変異ウイルスによる感染症発症も連日報告されています。妊娠している方はとくに不要不急の外出は控えてください。お部屋の換気にも注意しましょう。現在、妊産婦の感染の原因は、家庭内感染、つまり感染した家族との濃厚接触が多いことが知られています。家族も帰宅時は手指消毒やうがいを励行してください。微熱や咳などがあれば、家庭内でもマスク着用をしてください。水分補給と脱水に気を付けて、適切な睡眠をとり、バランスの良い食事を摂取し、下肢のストレッチや運動を行い血栓症の予防に努めてください。


妊婦健診

 ご自身の状況と発生動向に応じ、妊婦健診日の間隔を多少あけることもできますが、いまは通常の間隔のことが多いようです。かかりつけの産婦人科医等によくご相談ください。血圧が高めなどの持病のある方、高齢、肥満の方、切迫流早産あるいはその既往のある方、前回の妊娠・出産で何か異常のあった方、多胎妊娠の場合などは、ハイリスクの方の管理に必要な間隔での妊婦健診が勧められます。感染を予防するために、健診へのパートナーをはじめとする家族の付き添いは禁止されることもあります。受診のときは、マスクを着用し、待合では間隔を空けて座り、必要に応じて手洗いや手指消毒をしてください。発熱や体調不良があるときは受診前にかかりつけ産婦人科施設に相談して受診日の変更などを検討してください。

 感染を疑う場合はかかりつけ医に連絡をして相談してください。各都道府県に設置されている新型コロナウイルスに関する相談・医療の情報や受診・相談センターにもご相談できます。

◆参考:厚生労働省「新型コロナウイルスに関する相談・医療の情報や受診・相談センターの連絡先」

仕事について

 時差通勤やテレワークの活用、休暇の取得などについて、ご自身の体調なども踏まえ、勤務先とよくご相談ください。なお時限的な措置として、令和5年3月31日までは、妊娠中の女性労働者が「新型コロナウイルス感染症に感染するおそれに関する心理的なストレスが、母体又は胎児の健康保持に影響がある」と医師または助産師から判断され、指導を受けた際に、これを事業主に申し出た場合には、「事業主は、この指導に基づき、作業の制限、出勤の制限(在宅勤務又は休業をいう)等の必要な措置を講じる」こととされています。これらの措置に関する申し出をされる際には、母性健康管理指導事項連絡カード(母子健康手帳に入っています)をぜひご利用ください。

こちらもCHECK

  • 厚生労働省 「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置について」
  • 出産への備え

     母親学級・両親学級、マタニティエクササイズなどの数々の学級やクラスは、対面で行うものは通常中止になっていると思います。しかし、助産師等による必要な保健指導や重要な学級、不安に対する指導などは何らかの方法で行われています。パンフレットやDVD、WEB配信や電話相談などを活用し、きめ細やかな指導が受けられます。自治体での保健師等による指導もありますが、まずは、かかりつけ施設に確認してください。

     なお、感染動向によって感染予防のための、ご家族の方の立ち合い分娩、面会、計画分娩や無痛分娩の制限、場合により入院期間の短縮などが行われております。状況により変化しますので、かかりつけ施設の新型コロナウイルス感染症対策やご案内などに注意してください。


    里帰り出産

     感染症の発症動向によって、都道府県をまたいでの移動によるいわゆる里帰り出産の対応は変化しております。受け入れ先の施設の状況や方針を必ず確認してください。早めの帰省、実家での一定期間の在宅待機の間に体調に変化がないことを確認、場合によりPCR検査陰性を確認してからなど、里帰り先の医療施設に受診する前に行うべき手続きもあるようです。


    ワクチン接種

     妊産婦へのワクチン接種は、そのメリットがリスクを上回るとのコメントがアナウンスされています。まだ一度もワクチン接種を受けていない方も、1回目2回目が終了されている方も、接種を検討されるようお願いします(日本産科婦人科学会「新型コロナウイルスワクチンをまだ接種されていない妊婦のみなさまへ~第 7 波をうけての再度のお願い~」

     現時点でmRNAワクチンには胎児への奇形や胎児胎盤障害を起こすという報告はなく、妊娠中のどの時期においても接種してよいと言われています。2回目3回目のワクチンを接種しても、これまでと同様にマスク使用、手洗い等の感染予防策は続けてください。

     妊婦のパートナーや家族も、家庭内感染を防ぐためワクチン接種をしてください。


    さいごに

     COVID-19に対しては、原因となるウイルスの変異株が進化しており、また、有効な治療薬も妊婦に対する使用には制限があります。With coronaの時代の中で、旅行やイベント参加が推奨される時期に入っても、母子の安全を守るために自身の感染を抑制する行動を家族の協力のもとできる限り取ってください。必要以上に恐れるものではありませんが、できることから始めて、悩ましいことは産婦人科医、助産師、保健師に相談し、その日を安産で迎えてください。生まれてくる赤ちゃんはあなたに、社会に、素敵な希望を与えてくれると思います。

    こちらもCHECK

  • 日本産婦人科医会 「【妊産婦のみなさまへ】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について」(第8報)(第9報)
  • 日本産婦人科医会 「新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて」
  • 厚生労働省 「妊産婦や乳幼児に向けた新型コロナウイルス対応関連情報」
  • 日本産科婦人科学会 「「新型コロナウイルスワクチンをまだ接種されていない妊婦のみなさまへ」
  • ※2022年10月30日にご寄稿いただいた原稿です。