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ホーム連載・読み物 インタビューシリーズ第2回 奥山千鶴子さん

インタビューシリーズ
親も子もトライ&エラー

日々、親ごさんと接しているかたや、子育て奮闘中のかたにお話を伺っていきます。

シリーズ第2回
ひとりで子育てするのは難しい
多くの人の目と手で、子育て家庭を支えたい

奥山千鶴子さん

奥山千鶴子さん
プロフィール
NPO法人 びーのびーの 理事長

7年前、「地域に親子の居場所がない」と痛感した親たちが、商店街の空き店舗を借りて、自分たちの手でつくった子育てひろばは、いまや地域の親子の生活になくてはならない存在になりました。
ひろば創設の中心メンバーのひとりで、NPO法人「びーのびーの」代表、奥山千鶴子さんにお話を伺いました。

Part1(前半) ひとりで子育てするのは、ほんとうに大変
Part2(後半) ひろばが国の事業に。しかし順風満帆ではなかった

Part2(後半) 2007年5月24日掲載

ひろばが国の事業に。
しかし、順風満帆ではなかった

編集部:補助が得られても、安定するまでにはいろいろな困難があったのでは?

奥山:私たちも、いつまでも単年度の補助金では厳しいだろうと思っていました。
ただ、開設当初から、周囲が注目してくれたことが、いい結果につながったんですね。たとえば、子育て通信で知り合ったミニコミ誌のお母さんたちや地方紙が取り上げてくれたり、有識者が視察に来てくれた。

初年度の暮れには、厚生省(平成13年1月から厚生労働省)の人が視察に来てくれたんです。「お母さんたちがお金もないのに、無謀にも始めた、なんとか支援しよう」という声が、届いていたんですね。
それで、視察の翌年の平成13年9月には、「吉祥寺0123や、びーのびーのをモデルに、平成14年度から、ひろばを事業化しましょう」と言ってくれました。

ただね、横浜市が動かないとダメなんです。当時、小泉内閣が待機児ゼロ作戦、保育所充実を謳っていた頃で、市は「あなたたちは専業主婦なんだから、自宅で育てられるでしょ」と、とりあってくれない。何度も説得したり、ツテをたどって行政の知り合いを紹介してもらったりと手を尽くしたのですが、予算を通らなかったんです。

編集部:一筋縄ではいかなかったんですね。

奥山:でも、世の中、何が起こるかわからない(笑)。3月の市長選で前職が破れて市長が交代して・・・。5月になって突然、「つどいの広場事業」が通ったんです。
たぶん、新市長が、お蔵入りになった企画書に、もう一度目を通してくれたのだと思います。その後も順風満帆というわけではなかったけれど、最初はまったくの自主事業で、「来月はやっていけるかしら?」という状態だったのが、国や市の事業として続いてきたことに、私たち自身も驚いています。

もう終わりかな? と思ったことも何度もありましたが、人に励まされて、続けてこられた。とくに1年目は、お金がないことの素晴らしさというか、お金がなかったからこそ、「人」に支えてもらえた部分もあったと思います。講演会では、謝礼をお支払いしても、寄付で戻してくださったり。

編集部:奥山さんたちの活動に情熱と志があったからこそ、賛同して支えたいという人がいたのでしょうね。

奥山千鶴子さん

誰もが、子どものいる生活を
ハッピーと感じられるように

編集部:いま、どんなことを頭に描きながら、活動していますか。

奥山:ここに住むすべての親が、子どもがいる生活がハッピーだと感じられるような活動をしていきたいですね。子育ては大変。でも、「子どもがいてよかった」「子どものおかげで大人もつながれた」と思えるような関係をつくっていきたい。

編集部:そこには、奥山さんご自身の体験からくる思いもありますか。

奥山:ええ。私たちが、0歳、1歳、2歳にこだわっているのは、はじめての地域で、はじめての親経験で、親がひとりで子どもを育てることは難しいという実感があるからなんです。

子どもがいなければ、自分のことは自分で責任をとればいいけれど、子どもを育てるには、私ひとりが100パーセントがんばっても無理なんです。いろんな人にかかわってもらって、支えてもらいながらじゃないと、育てられない。

編集部:ほんとうに、そうですね。

奥山:「家庭が大事」「しつけが大事」という言葉は、「密室で、親だけで、しっかりしつけしなさい」とも、聞こえます。

もちろん、愛着という意味での親子関係は大事ですが、それは決して、周囲の助けを借りてはいけないとか、すべて親の責任で育てなさいということではない。むしろ、いろいろな人の目と手に支えられて、親は親になっていくと思うんです。親自身が支えられていないのに、子どもをしっかり育てなさいと言っても無理があるでしょう? だから、私たちは、親をとことんサポートしてあげたい。

港北区地域子育て支援拠点「どろっぷ」

港北区地域子育て支援拠点「どろっぷ」
横浜市港北区から委託を受けてNPO法人びーのびーのが運営する子育て支援拠点で、2006年4月に開設された。概ね0歳~3歳の未就園児の親子が対象。

編集部:こちらのどろっぷでは、1日に何組の親子が訪れるんですか?

奥山:70~80組くらいですね。利用者する人すべてが、ここの雰囲気を作っていくので、来てもらった最初の1回目を、とても大事にしています。この場がどういう思いでできたのか、家賃は市から出ているけれど、運営している私たちも同じ親として苦労してきたこと、私たちのノウハウはすべて伝えたいと思って運営していることなど、原さんか私が直接、説明するようにしています。

編集部:よい関係を築いていくためには、思いや志を伝えていくことが大事なんですね。

奥山:会員さんはサービスを受けるだけの存在ではないし、スタッフもサービスを提供する側にいるのではない。スタッフも会員も、一人ひとりが、この場を一緒に作っていく一員だということも伝えていきたい。

編集部:お父さんの利用も多いそうですね。

奥山:とくに土曜日は多いですね。育児休業中のパパも来ています。

地域で働き
ステップアップしていく場として

奥山:いつも思うことですが、お母さんたちはいろいろな力を持っているんですね。みんな雇用均等法後に仕事をしてきた人たちだから、働く力はある。だけど、今の働き方の制度には、なかなか乗らないんです。小さい子どもがいて、フルタイムで働くのはきついと、ほとんどの人が感じている。

編集部:たしかに、企業の多くは目の前の効率優先で、子育て家庭に厳しいですね。

奥山:たとえば、子どもが小さいうちは、地域のボランティアから始めて、少しずつ働く時間を延ばし、力も伸ばしてステップアップいけるような、そんな働き方があってもいいと思うんです。びーのびーのでは、ボランティアもいれば、フルタイムもいて、女性の働きかたがぜんぶ揃っている。

私がNPOで働くことを決めたのも、子どもと日々暮らしていくうちに、今まで自分がかっこいいと思っていた「世界を股にかけて働く生き方」ではなく、適度に働いてお金をやり繰りして育ててくれた父や母を「かっこいい」と思うようになったから。「豊かな生活」を考える働き方ができると思ったから。今の世の中、子どもを育てるにも、子どもが育つにも厳しい状況だと感じ、それを地元横浜で、少しでも変えていきたいと、決心したからです。

奥山千鶴子さん

編集部:いま、奥山さんのお子さんはおいくつですか?

奥山:中1、小4、小2です。みんな、「びーの」と共に育ってきました。保育園や学童保育のあと、ここでスタッフの子ども同士で遊んだりね。

以前、話し合ったことがあるんです。会員さんがお金払って来ているのに、スタッフが子連れで来たら、どう思われるだろうと。でも、ここは企業ではないし、ちゃんと話せばわかってもらえるという話になった。逆に、会員さんにとっては、少し上の子どもたちを見ることで、「うちの子もこうなるのかな」と、見通しも立てられるし、小学生は小さい子の面倒を見てくれる。

編集部:ここは「地域社会」なんですね。

奥山:こういう活動をしていると、「自分の子を犠牲にしている」と言う人もいますが、そうではない。私は地域で子どもを育てていると思っているし、子どもは「びーの」で働いている私を誇りに思ってくれていると思います(笑)

私たちの働き方は、地域と無関係ではありません。だから、この活動をフランチャイズ化するつもりはなくて、これからも、自分たちが住んでいるこの地域で展開していきたいと考えているんです。

編集部:かつて、焦燥感にかられた奥山さんと同じように、行き場がないと感じている親子がいたら、何と伝えたいですか?

奥山:思い切って外に出てみる。一歩踏み出してみることではないでしょうか。どこかに必ず、応援してくれる人がいると思います。

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