赤ちゃん & 子育てインフォ

ホーム連載・読み物子どものこころを育てる

子どものこころを育てる 2

親の育て方が子どもの将来や性格に影響を与えると思うと、
やはりあせるのですが…。

 赤ちゃん時代は長い長い80年の人生の始まりの時期……。そう言われると、かえって「責任重大!」と感じてしまうお母さん、お父さんも多いようです。
 でも、子育てや子どものしつけについては、もう少し気楽に考えてみてください。なぜなら、乳幼児期の育て方が、その子の将来を決定づけてしまうわけではないからです。また、子育ての”失敗”は十分に取り返しがつくということもおぼえておきましょう。
 「本当?」と思われる方も多いでしょう。でも、これにはたくさんの証拠があります。

「三つ子のたましい百まで」
「乳児期の育てられ方がその後の発達を決める」というのはまちがいです

「三つ子のたましい百まで」ということわざがあります。多くのお母さん、お父さんはこの言葉を「もっとも」と考え、だからこそ小さな頃の子育てに失敗やしくじりは許されないと緊張したり、不安になったりするのでしょう。
 ここに込められているのは、小さな頃の発達や親とのかかわりが、その後の子どもの性格や能力、ひいては将来を決めてしまうという考え方です。これは「幼児期決定説」と呼ばれます。 最初にこの説を唱えたのはフロイトです。精神科医であったフロイトは、ノイローゼなどこころの病気を持つ人の治療にあたりながら、こうした病気の原因が、主として幼児期の母親の接し方……たとえば授乳や離乳、抱っこの仕方、おむつのはずし方などにあると指摘しました。
 「母原病」(子どもの病気や発達のゆがみの原因が母親にあるとする説)などという言葉も、この考えに立ったものだと考えていいでしょう。実際によく言われますね、「母親の育て方が悪い」、「母親が面倒をみないから」などと。
 でも、子どもの病気や問題行動をすべて母親や、その「育て方」のせいにするのは、あまりにも単純な見方です。実際、フロイトの説は、その後たくさんの反証があげられ、覆されてしまいました。多くの学者が「フロイトの言うことは本当かも」と考え、母乳で育った赤ちゃんとミルクで育った赤ちゃんの違いや、抱き方やおむつはずしの方法とその後の発達との関係を調査したのですが、結局、フロイトの説を証明できなかったのです。
 そもそも、この説が正しいとしたら、幸せでない子ども時代を過ごした人は、未来に希望が持てなくなってしまいます。ましていまや人生80年の時代。最初の数年間がその後の長い一生に「取り返しのつかない」影響をおよぼすと考えるのは、おかしいと思うのですが、いかがでしょう。

人間は、しなやかに変化していく可能性を持っています

 また、注目したいのは、人間の成長がいかに変化の可能性を持つものかを示すたくさんの研究です。
 人間の発達について研究を続けているアメリカの心理学者・ケイガンも、こう言い切ります。「人間の発達では、連続性というものがきわめて小さい」と。ケイガンの研究では、わずか数年前の様子からでさえ、のちの成長を予測することが難しいことが示されました。ましてや赤ちゃん時代にこうだったから、こう育てられたからこんな大人になる、こういう人生を送るなどと、予測することはほとんどできなかったのです。それほど、人間の成長は変化の可能性をもっているのです。
 幼児期に虐待などの体験をした子たちも、のちに愛情深く育てられることで心理的にも肉体的にも回復していくという例も報告されています。人間の回復する力、再生する力はすばらしいものです。
 そして、こうした力は誰にでも備わっているのです。赤ちゃん自身の育つ力も、信じてあげましょう。

「親の育て方がすべてを決める」
というのは乱暴で根拠のない話。
こう育てたから将来はこうなるなどと、決して言えません。

←前のページへ 2/16 →次ページへ