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歯とお口のケア

Q. 5歳の息子。歯ぐきの中で折れている歯を抜くかワイヤーで固定するか悩んでいます。 (2020.3)

  • (妊娠週数・月齢)5歳

5歳の息子が口まわりを強打し、前歯上下3本ずつがぐらついている状態です。上の前歯1本はぐらつきも大きく、レントゲンで見ると歯ぐきの中で折れているようでした。歯医者さんはしばらく様子を見ると言っていましたが、今後抜歯するか、ワイヤーで固定するかを考えなくてはいけないようです。ワイヤー固定は、多少なりとも顎の成長を抑制するという説明を聞いたため、なかなか決められずにいます。抜歯とワイヤー固定それぞれのメリット・デメリットを教えてください。

回答者: 井上美津子先生

 外傷によりぐらついた乳歯への対応は、通常は固定してぐらつきを抑えるか、そのままできるだけ安静にして様子をみます。ご質問のお子さんの場合、5歳とそろそろ乳歯から永久歯への生え換わりが近いことと、1本が歯根破折していることで、対応が複雑になっているのだと思われます。

 乳歯が永久歯に生え換わるとき、永久歯の萌出の動きにより乳歯の歯根は徐々に吸収されていき、最終的には歯根がほとんどなくなって脱落し、下から永久歯が生えてきます。前歯(切歯)の場合、4歳ごろから乳歯の歯根吸収が始まり、6~7歳で永久歯が生えてきます。最近のデータ(2018年)では、下の永久中切歯が生えるのが男児で平均6歳3か月、女児で6歳0か月、上の永久中切歯が生えるのが男児で平均7歳2か月、女児で6歳11か月となっており、上の前歯の方が1年くらい遅く生えてきます。

 3~4歳ごろまでの乳歯の前歯では、おそらくまだ歯根吸収が起こっていないので、外傷でぐらついた(動揺した)場合、まずは安静にしてぐらつきが収まるのを待ちます。ぐらつきが軽度の場合は、前歯を使って噛まないようにするなどして様子をみます。ぐらつきが強い場合は、そのままでは安静がはかりにくいので固定します。固定法にもいろいろあり、外傷歯が1本だけでしたら両脇の歯と接着性の材料(接着性レジン)でつなげることが多いのですが、3本以上になると左右の犬歯(糸切り歯)くらいまでワイヤーを沿わせて接着性の材料を付けて固定します。固定の期間は、2週間から長くても6週間くらいですので、顎の成長を抑制する心配はあまりないかと思われます。ただ、この時期でも、歯根破折を伴う動揺歯の場合には少し長めに固定が必要であり、2か月以上が目安とされています。それでも、固定を外したときに動揺が収まっていなければ、最終的には抜歯が必要になるケースもあります。歯根破折の部位によっても治り方が違って、歯ぐき(歯頚部)寄りの破折だと動揺が収まりにくいので、抜歯になることも少なくありません。

 5歳を過ぎていると、生え換わりが早い子どもではそろそろ下の乳切歯の歯根吸収が進んで動揺していることがあり、上の乳切歯も歯根の吸収が始まっていることが多いです。ぐらついている乳歯を、しばらく様子をみるというのは、担当した歯科医が少し経過をみてから今後の判断をした方がよいと考えられたからではないでしょうか。ほかの外傷歯のぐらつきは収まってきても、歯根破折した歯のぐらつきがさらに著しくなっていたら、多分保存は難しいので抜歯の選択が必要かもしれません。ぐらつきがそれほど変わらないようでしたら、固定処置をするのも一案です。2か月くらいでしたら、それほど顎の成長を抑制しなくてすむと思います。ただし、固定を外したときに、歯根破折の状態がどうなっているかの診断が再度必要になります。歯根破折した乳歯を残すために、生え換わりまでワイヤー固定をしたままで過ごすことは、上の乳切歯ですと1年以上かかることもあるので、顎の成長の面からもあまりお勧めできません。

 抜歯した場合、3~4歳までは可撤保隙装置といって取り外しの義歯を入れることが多いのですが、5歳を過ぎて永久歯の生える時期が近い場合は、そのまま様子をみることもあります。この点もよく歯科医と相談してください。