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母乳とミルク・授乳

Q. 妊娠16週。母乳育児に対して嫌悪感を抱いています。 (2020.9)

  • (妊娠週数・月齢)妊娠5か月 (16〜19週)

妊娠16週、39歳、初めての妊娠です。母乳育児にとても抵抗があります。母乳育児というのは、母親だけに子どもの命や成長を委ねることになり、子どもにとってもリスクが高いように思えます。ミルクなら、誰もがいつでも授乳ができます。免疫成分が入っているとか、乳幼児突然死症候群のリスク低減、母体の回復などの話もありますが、基本的に母乳ありきの立場からの話ばかりで、ミルクだけで育てた場合からの反証がされていないので信用度が低いと思います。母乳が出ない人には「ミルクは母乳と遜色ないから悩む必要はない」と説明しながら、表立っては母乳一択のように推奨されていて、母子の絆を育むとまで書かれているものを目にすると、より一層母乳育児に嫌悪感を覚えます。通っている産院も母乳推奨なのですが、相談したところ「母乳に移行する薬を飲んでいる人や性的被害のトラウマなどで母乳を断る人はいる」とのことでした。しかし、私はそのような人たちとは違い、自分の考えで母乳育児を拒否しています。そう考えると、理由があって母乳育児ができない人に失礼だという気持ちもあります。出産準備の本なども母乳育児前提で書いてあり、このことを考えるととても憂鬱な気持ちになってしまいます。

回答者: 市川香織先生

 妊娠中で、出産後の母乳育児に対して受け入れられない気持ちを持っておられるのですね。

 社会的には母乳育児を推奨する流れがあり、母乳育児に対して否定的な気持ちを持つことをオープンにできないことも、あなたを苦しめているのですね。

 最近の研究で、授乳のときにどうしようもない不快感に襲われる「不快性射乳反射(D-MER;Dysphoric milk ejection reflex)」という症状が現れる女性が一定程度いることが明らかになってきました。授乳をするといやな気持になったり、気持ちが落ち込んだり、怒りを感じる人もいるという報告があります。これは、授乳のときに母乳を作るホルモンであるプロラクチンの濃度を上げるために、脳内でドーパミンというホルモンが下がるため起こると言われています。ドーパミンには喜びや気分がよくなる働きがありますが、これが下がってしまうことで不快な症状が現れてしまうのです。母乳育児をしている女性の9%くらいがこの症状に困っているという調査結果もあります。妊娠中からプロラクチンは徐々に上昇してきますので、もしかすると、あなたにも同じような感覚が現れているのかもしれません。

 対応方法としては、母乳ではなく人工乳に切り替えることが一番ですが、自分が不快だから母乳をやめることで赤ちゃんに対して申し訳なく思う気持ちを持ってしまう方も多くいます。ですから、こういう気持ちはいままであまり語られてきませんでした。しかし、この症状はホルモンの作用であり、自分では制御できない身体的な反応ですので、母親を責めるのではなく、母親自身も周囲もこのしくみを理解することが必要です。

 あなたのいまの気持ちが「不快性射乳反射」によるものかどうかはわかりませんが、母乳育児のことを考えるだけで不快だし、したくないということであれば、無理に母乳育児をする必要はまったくありません。人工乳で育ったからといって、成長や発達に違いが出るわけではありません。赤ちゃんをいとおしい、かわいいと感じる気持ちは母乳でも人工乳でも変わりはないですし、人工乳であれば母親以外の方が授乳できるメリットもありますね。

 しかし、赤ちゃんにとって母乳が命を守ることにつながる重要な場合があります。それは赤ちゃんが未熟児で生まれてしまった場合です。人工乳ではなく母乳を与えることで壊死性腸炎という病気の予防につながります。ですから、もし万が一、早産になった場合には、出生後数日でもいいので母乳を与えることが赤ちゃんの治療につながると思っていただければと思います。

 今回、母乳育児に関して不快な気持ちがあることを、正直に打ち明けてくださりありがとうございます。もう少し妊娠週数が進んだとき、あるいは産後に、感じ方や気持ちも変わるかもしれません。揺れ動くことは悪いことではありません。その時その時に自分の気持ちに正直に向き合って、自分が快適で安全と思える方法を選んでいくことが、あなた自身にとっても赤ちゃんにとっても最適な方法となると思います。身近に相談できそうな専門家がいれば、話を聞いてもらうだけでも気持ちを整理できると思いますので、見つけてみてくださいね。