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歯とお口のケア

Q. 3歳の娘。奥歯で噛めず、食べ方が下手です。 (2021.2)

  • (妊娠週数・月齢)3歳

3歳の娘は食べ方が下手で、食べ物を前歯で噛んでいて、奥歯を使っていないようです。うまく飲み込みができず、よく吐き出しています。保育園でも完食するのに1時間かかっているそうです。奥歯で噛まずに前の方で噛むため、口から食べ物が見えて汚らしい状態となり、お茶で流し込みたがります。どうしたら奥歯で噛めるようになるでしょうか? この件について、病院で相談はできますか?

回答者: 井上美津子先生

 「奥歯であまり噛んでいない」という食べ方の問題の訴えは少なくありません。ただその原因を考えると、むし歯や歯の生え方、噛み合わせ、舌小帯など口の中に問題があることもあれば、食べる機能の発達が不十分な場合や、食環境・生活状況から食べる意欲があまりないことなど、さまざまな要因が考えられます。公的歯科健診や歯科医院で口の中をチェックしてもらい、相談にのってもらうといいでしょう。

 「奥歯で噛む」という咀しゃくの動きは、離乳後期ころから獲得されていく機能です。離乳の初期に「唇で食べ物をとり込む」「口を閉じて飲み込む」ことを、中期には「舌で押しつぶす」ことをまず覚えます。離乳後期には、形のある軟らかめな食べ物を「奥の歯ぐきでつぶす」ことを覚え、1歳を過ぎて乳歯の最初の奥歯(第一乳臼歯)が生えてくると「奥歯を使って食べ物を噛みつぶす」ことの練習が始まります。この奥の歯ぐきや奥歯で食べ物を噛みつぶすためには、舌の動きが前後から上下、左右へと発達することや、唇や頬が舌と協調して動くこと、上下の顎が協調して動くことなどが必要となります。第一乳臼歯だけのうちは、噛みつぶす程度で飲み込みやすい食べ物(煮野菜や卵焼き、肉団子など)で噛む練習をしていきます。2歳半ころには第二乳臼歯という噛む面の大きな奥歯が生えてきて、3歳ころに上下の第二乳臼歯が噛み合うと、すりつぶしが必要な食べ物(かたまり肉や繊維のある野菜、生野菜、きのこなど)も徐々に食べられるようになります。

 このような奥歯で噛む機能の発達には、さまざまな要因の関与が考えられ、また発達の個体差も大きいものです。口の中の要因としては、乳歯の萌出の遅れや、重症なむし歯、噛み合わせの異常(不正咬合)などで、奥歯でうまく噛めない場合があります。また、舌小帯(舌の裏側についている「スジ」)が短いために舌の動きが制限され、食べ物を舌で奥歯の方に送ったりしづらい場合もあります。

 機能面の要因としては、乳歯の生え方が遅い場合、月齢に合わせて離乳が進められると、奥の歯ぐきも発育していないので前歯で食べ物を処理することになり、奥歯が生えてもその食べ方が続いてしまうことがあります。舌で食べ物を側方に送る動きが習得されていないと、奥歯で噛む経験の不足が起こりやすくなります。前歯では噛み切るだけで、噛みつぶしやすりつぶしができないので粗きざみの状態となり、食欲旺盛な子どもはそのまま丸のみしてしまいますが、通常は口から出してしまうか、ためてしまいがちです。食事時間が長くなり、子どもにとって食事が負担になってしまうこともあります。また、口呼吸でいつも唇が開いている場合、食事のときも口を閉じると息が苦しいので、奥歯でよく噛んでいられないことが多くなります。食事のときに猫背で前傾姿勢だと、下顎が前方に行き前歯での方が噛みやすくなってしまうこともあります。

 環境面の要因としては、睡眠不足や運動(体を動かす遊び)不足で食べる意欲が湧かなかったり食事が楽しくない状況だったりすると、噛もうとする意欲も出てきません。
 これらの要因は相互に関連して「食べ方」にかかわってくることも多いので、子どもの口の中の状態や生活状況なども含めて対応していくことが大切です。

 ご相談のお子さんの場合、重症なむし歯があったり奥歯が生えていなかったりということはなさそうですが、噛み合わせの状態や舌小帯、口呼吸の有無(鼻呼吸の可否)などをかかりつけの歯科医院でチェックしてもらうとよいでしょう。公的歯科健診や保育園での歯科健診の際に歯科医師に相談してみてもいいと思います。
 保育園ということですので日常の生活リズムは多分整っていると思いますが、1時間かけて完食することが子どもの負担になっていないかや、家庭でも食事を急かしていないか、子どもが食事を楽しんでいるかなどを見直すことも必要でしょう。

 食べ方の相談や指導は、以前は保健センターや専門の医療機関で行われていましたが、最近は「食べる」「話す」など口の機能に困りごとがある子どもに対して一般の歯科医院でも「口腔機能発達不全症」として指導・管理が行えるようになりました。子どもを多く診ている歯科医院では、相談やアドバイス、指導などをしてもらったり、必要に応じて専門の医療機関に紹介してもらうことができると思います。

 ただ、食事の場面がトレーニングになると、子どもにとって「食べる」ことがよけいストレスになる場合もあります。好きなおやつや好みの味の食べ物などで練習をするのも一案です。カリカリと触感が楽しめるえびせんや子どもに好まれるフライドポテト、噛むと味が出るドライフルーツなどもおすすめです。奥歯で噛むと唾液の分泌も高まるので、おいしさを味わいやすくなります。「よく噛むとおいしいよ」ということを、ぜひお子さんに伝えてほしいと思います。