赤ちゃん & 子育てインフォ

ホーム妊娠・子育て相談室インターネット相談室Q&Aバックナンバー性格・親のかかわり・育て方

性格・親のかかわり・育て方

Q. 1歳8か月の娘。父親以外が世話をすると大泣きするようになりました。 (2021.7)

  • (妊娠週数・月齢)1歳7か月

1歳8か月の娘の母親です。娘は1か月半前にかぜをこじらせて5日間入院したのですが、私が妊娠中だったため、病院からの指示で付き添いは主人となりました。その娘の入院中に、今度は私が妊娠悪阻で入院することになり、またコロナ禍のため面会できないまま1か月ほど、家事と育児はすべて主人にお願いしていました。ようやく私が退院したとき、娘は私に会えたことを喜んでくれましたが、寝かしつけ、食事、お風呂などの世話は、主人でないと大泣きするように。しばらくしたら私でも大丈夫になるだろうと思っていましたが、2週間以上たっても、主人でないと大泣きします。主人もそれが嫌に感じるようで「うるさい!」と怒鳴ったりしています。毎日、私になつくように娘とかかわっていますが、なかなか元の関係に戻れず、もどかしい気持ちでいっぱいです。娘を怒鳴りつける主人のことも嫌いになりそうです。どうすればよいでしょうか?

回答者: 高橋惠子先生

 育児で何か問題が起きたときには、子どもの立場から問題を捉えてみてください。子どもの目線で状況を考えてみると、解決法もわかると思います。ご質問の問題は、子どもの「愛着」について考えてみるとよいでしょう。

1.愛着とは何か
 まず、愛着について説明しましょう。1歳半前後になると、多くの子どもは自分の「愛着の対象」は“この人”と決めています。これが初めの「愛着の対象」で、子ども自身が選ぶ人です。子どもが不安になったり、困ったりしたとき、たとえば、疲れたり、眠かったり、おなかがすいたりして機嫌がよくないときには、この特別の人が助けてくれることを望み、そうしてくれるはずだと信頼している人です。「愛着」とは、子どもが生存を確保するために、心の安定を得るために、ぜひ助けてほしいと特定の人に願うことです。この「愛着の対象」は子どもの心身の安寧にとって不可欠なのです。

 注意するべきことは、第一に、子どもが選ぶ「愛着の対象」が母親であるとは限らないことです。1~2割の子どもは、たとえ母親が毎日世話をしていても、母親ではなく、父親や祖母などを「愛着の対象」として選ぶことが報告されています。そして、第二に、「愛着の対象」が母親ではなくても、子どもの発達に問題はないということです。重要なことは、この時期の子どもが誰かを「愛着の対象」と決めていること、そして、その対象に十分にかわいがってもらえることなのです。

 質問の文面から、このお子さんは「愛着の対象」が明確になる時期に、さまざまな事件が起こったようです。お子さんにとってつらいことが多かったであろうと想像されます。しかし、幸いなことに、父親を「愛着の対象」と選んで状況を乗り切りました。お父さんはお世話をがんばられ、子どもはその父親を信頼して、「愛着の対象」として選んだということでしょう。危機を乗り切った父子の努力は、あっぱれだと思います。母親としては子どもが「愛着の対象」を持てたことに感謝しましょう。上述のように、生存を支える「愛着の対象」への子どもの思いは強く、切実なものですから、母親が世話に復帰したからといって、すぐに母親に愛着行動を向けることはありません。寝かしつけのときなどに父親を求めるのは、子どもの心の状態からいえば自然なことです。

2.安全地帯としての「愛着の対象」 
 しかし、子どもは「愛着の対象」にずっと束縛され、この人だけしか受け付けないというわけではありません。「愛着の対象」にしっかり支えられていると、子どもは冒険をし、愛着の対象ではない周りの人々ともつきあう、勇気が出せるからです。

 「愛着の対象」は“安全地帯”として働くと考えるとわかりやすいでしょう。“安全地帯”は危険に瀕したときに逃げ込める場所で、そこにいれば安心です。しかし、子どもは好奇心が強く冒険を好む性質がありますので、“安全地帯”にいつも留まっていることはありません。子どもはじっとしているのが苦手です。つまり、子どもは、“安全地帯”を冒険の基地にして、そこから出て遊んだり、他の人々ともつきあおうとします。いざとなれば、安全地帯に逃げこめばよいと知っているからです。このように「愛着の対象」を持つことで、子どもは生存を確保しつつ、そのうえで、楽しい体験をする勇気も持てるのです。したがって、母親へも関心を向けるようになります。

 母親が「愛着の対象」として信頼されるようになるには、まず、子どもが“安全地帯”を必要としないような場面での付き合いから始めることです。つまり、子どもがご機嫌で元気のよいときに、一緒に遊んだり、散歩をすることから始めてみましょう。むろん「愛着の対象」である父親は子どもを拒否してはいけません。少なくとも、子どもが「愛着の対象」として母親を認めるまでは、父親は子どもの「愛着」を受けとめることが必要です。父親は子どもの気持ちは受けいれながら、「お母さんとねんねしてごらん」「お母さんとお風呂に入ると面白いよ」などと、母と子の橋渡しをするとよいでしょう。したがって、両親が仲よしであることを子どもに見せることも重要です。子どもは「愛着の対象」(父親)と仲のよい人(母親)なら、安心な人だと理解するからです。

 すでに父親を「愛着の対象」としている子どもからすれば、急いで母親との関係を回復させる必要はないでしょう。したがって、おとなの都合で焦ったり、深刻に悩んだり、子どもに無理を強いるのは避けましょう。人生百年時代ですから、お子さんとの関係は先が長いのです。子どもがどのようなパートナーとして母親を選んでくれるのか、ゆっくり、楽しんで、関係を築いていきましょう。