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ママ・パパの気持ち

Q. 「ママ嫌い」をくり返す息子。何かのサインでしょうか? (2022.7)

  • (妊娠週数・月齢)3歳

3歳2か月の息子は、この春、保育園の年少組に進級しました。かれこれ半年ほど、気に入らないことが起きると「ママ嫌い」と言ってきます。最初のうちは「そんなこと言われたらママ悲しいな」と伝えていましたが、半年たち、毎日のように言われるのでそろそろ疲れてきました。余裕がないときには「そうだねー」と受け流してしまいます。私が無反応だと、息子は「ママ大好き」と言ってきます。息子のこの言動には何かのサインが隠れているのでしょうか。私自身は実母に嫌いと言ったことはありません。なんだかとても悲しくなります。実際、息子はパパっ子で、私はいなくてもよいような気がしてしまいます。私はどう対応したらよいのでしょうか。

回答者: 高橋惠子先生

 誰よりも大切に思い、日々世話をしているにもかかわらず「ママ嫌い」と言われるお母さんが驚き、悲しむのは当然です。何かのサインかしらと心配されるのも当然です。しかし、幼児が「ママ嫌い」と言うのは決して珍しいことではありません。私たちが毎年成長の追跡調査していた幼児の中にも、母親が主な養育者でありながら、3歳から毎年、「ママは嫌い」と言い続けた子どもたちがいました。1年の間隔があいても、同じように嫌いというので、調査のときに「ちょっと意地悪を言ってみた」というのではなさそうでした。そこで、この「ママ嫌い」群の子どもたちを「ママ好き」群の子どもたちと比べてみました。さまざまな発達の調査をしていましたので、すべての結果を検討しましたが、二つの群に差はありませんでした。「ママ嫌い」群に何も問題がないことがわかりました。唯一二つの群が違ったのは、親しい人間関係の内容についてでした。

 対面調査で尋ねてみたところ、3歳ですでに子どもは自分の大切な人を選んでいることがわかりました。父母、きょうだい、祖父母、いとこ、友だち、保育園の先生、バスの運転手さん……などの多くの人々から、自分にとって大切な人を数人選んでいることがわかりました。そして、選択したそれぞれの人が自分にとって、どのように大切かを区別していることもわかりました。つまり、幼児は親しい数人からなる“大切な人のネットワーク”を作っていて、たとえば、「困ったときには、Aに言えば助けてくれる」「わからないことがあったら、Bに聞くと教えてくれる」「楽しいことがあったら、Cに伝えると喜んでくれる」「Dと遊ぶと楽しい」などと、A~Dのそれぞれの役割を区別していることがわかりました。このような“親しい人のネットワーク”を持つことで、困ったことを乗り越え、楽しいことを共有して、安定した精神状態でいられるようにしているのです。

 “親しい人のネットワーク”は、子ども自身が好きな人々を選んで作っていますので、子どもによって個人差があります。「ママ嫌い」群の幼児は「ママ好き」群の幼児に比べて、この“ネットワーク”の中での母親の重要度が小さいことが特徴でした。その代わり、父親や友だちが重要な人だと報告されました。質問者の息子さんが「パパっ子」だと報告されているのは、お子さんの“ネットワーク”が父親中心になっていることを示しています。「ママ嫌い」というのは、ママにとっては衝撃的ですが、子どもは頼りになる人(たとえば、パパや友だち)がいますので、何も問題はないということになります。

 では、なぜ日々母親の世話を受けながら3歳児は「ママ、嫌い」と言うのでしょう。嫌いと言われる母親に問題があると思われがちです。しかし、両群の母親の養育行動・態度のデータを検討しましたが、これという原因は見つかりませんでした。母子関係を長年研究されてきた先輩の心理学者は「なぜか、気が合わない母子がいる。それが何故かは調べてもわからなかった。“馬が合わない” と言うしかない」と話されました。私も人間関係には「相性」というものがあるのではないかと考えています。昔の人は「反りが合わない」などとも表現しています。

 「ママ、嫌い」といわれるのは確かに母親としては残念ですが、お子さんは自分の“ネットワーク”を作っているのですから、それを受け入れてあげましょう。母親が好きか嫌いかなどと親子で毎日話題にするのは楽しいことではないでしょう。母親としては子どもがもっぱら母親に依存するような“お母さん子”ではなくてよかった、成長したのだ、と考えてはいかがでしょう。親子関係はこれからも長く続く関係ですから、お子さんが信頼するような人間としての成長が、母親には必要です。幸いなことに、お子さんはパパに任せてよいのですから、そこまで大きくされたのですから、お子さん中心の生活を脱するチャンスです。ご自分のための時間を作り、自分育てをなさるのはいかがでしょう。