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病気・予防接種

Q. 乳幼児の低血糖の予防法や対策を教えてください。 (2022.11)

  • (妊娠週数・月齢)2歳

休日の朝、2歳の息子が先に起きてメソメソしていたので、抱っこしたところ体の力が抜けたようになり、ぐったりした状態に。異常に頭に汗をかいていたので脱水症でも起こしたのではと思い、イオン飲料を飲ませようとソファに座らせたら、背もたれにもたれかかって眠そうにしていて、名前を大きな声で2〜3回呼ぶと、やっとハッと起きるという状態で、唇は紫色になっていました。すぐにイオン飲料を飲ませると、少しずつ自分から喋ったり、唇の色もピンクに戻ってきて、15分後には元気になっていました。その後、心配で病院を受診したところ「このぐらいの年齢の子にはよくある、休みの日低血糖だよ。お母さんの対応がよかったから意識障害までいかなかったね」と言われ、「てんかんはないと思う」とのことでした。その日以降、就寝中に低血糖になって気づかなかったらと思うと怖くて、アラームを2時間おきにかけ、寝汗はかいてないか? 唇は紫色になっていないか?と確認しています。あれは本当に低血糖によるものだったでしょうか? そうであれば、予防法や対策を教えてもらいたいです。また、何歳ぐらいになれば心配なくなるものでしょうか?

回答者: 横田俊一郎先生

 ご相談のお子さんは、小児科の外来では比較的よくみる病気の「低血糖」だったのだろうと思います。糖質は人の身体のもっとも重要なエネルギー源で、特に脳や赤血球などの大切な臓器にとっては欠くことができません。そのため、人の身体にはある程度食事をとらなくても低血糖にならないような仕組みができていて、この仕組みがうまく働かなくなると低血糖状態になってしまうのです。

 食事から摂取した糖質はグルコースなどの単糖類に分解されて小腸から吸収され、全身のエネルギー源として使われるもの以外はグリコーゲンとして肝臓に蓄えられます。また、筋肉にもグリコーゲンとして蓄えられ、さらに余った部分は中性脂肪として脂肪組織に貯蔵されることになります。そして、これらを次の食事までに少しずつ利用することで血糖を調節しているのです。

 食事をしないと、グリコーゲンが分解されて糖質(グルコース)が血中に放出されるだけでなく、筋肉から供給されるアラニンというアミノ酸と乳酸、中性脂肪の成分であるグリセロールによって、グルコースを産生する回路(糖新生)が働いて血糖を維持します。また、脂肪組織では中性脂肪が分解されてグリセロールと脂肪酸が作られ、脂肪酸が酸化されてできるケトン体が、脳の活動のエネルギー源となります。

 小さな子どもでは肝臓のグリコーゲンの貯蔵量が少なく、食事をしないとグリコーゲンがなくなるまでの時間が大人より短いので、低血糖になりやすいのです。また、子どもは筋肉の量も少ないので、アラニンの量も少なく糖新生がうまく働きにくいということもあります。

 低血糖になりやすい子どもは小柄で、筋肉量が少なく痩せているタイプが多いこともわかっています。そして、運動などで疲れて夕食もとらずに早く寝てしまった翌日の朝や、発熱や胃腸炎などで十分な食事がとれないときなどに低血糖は起こります。また、運動会や学習発表会の前日などで精神的ストレスがあるときにも起こることがあります。

 低血糖になると元気がなくなり、意識がもうろうとするようになります。点滴をしようとしても痛みに対する反応が鈍くなり、さらにひどくなると意識消失やけいれんを起こすことさえあります。また、血糖を上げようとして交感神経系が緊張状態になるので、発汗や頻脈が見られ、顔面が蒼白になっていることが多いです。

 さらに、脂肪組織の分解でケトン体(アセトンなど)が高くなると、嘔気や嘔吐、腹痛や頭痛を訴えることも多くなります。また、アセトンが増えると息の匂いが熟したリンゴのようになり、「アセトン臭」と呼ばれます。低血糖になるときにはケトン体が高くなっていることがほとんどなので、医学的な病名としては「ケトン性低血糖症」という名称で呼ばれます。以前は、体内に産出された代謝産物中の毒性物質による中毒症状という意味で「自家中毒」という病名が使われていましたが、食中毒と紛らわしいので使われなくなりました。

 この病気は特別な身体の異常があるわけではなく、低血糖になりやすい体質があるために起こるもので、10歳以上で体格も大きくなり筋肉量も増えてくると自然に治ってしまい、後遺症が残ることもありません。ただ、似たような症状で先天性代謝異常症や内分泌疾患が原因のこともまれにあるので、症状がひどい場合や回数が多いときには病院で詳しい検査が必要となります。

 低血糖を防ぐためには長時間食事をとらないことがないよう注意し、たくさん運動した日には夕食で十分な糖質を補充することが効果的です。また、発熱や胃腸炎などで体調が悪いときにも、糖質の入った飲み物を与えることが予防につながります。そして、低血糖の症状を早く発見して糖質の補給を早めに行うことが、症状を悪化させないためには必要です。