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歯とお口のケア

Q. 3歳の娘。母親の飲みかけのペットボトルからむし歯はうつりますか? (2023.3)

  • (妊娠週数・月齢)3歳

3歳1か月の娘が、私の飲みかけのペットボトルを口に含んで、中身を飲んでしまいました。私は、自分がむし歯でつらい思いをしたので、娘には同じ思いを絶対してほしくないと思い、気をつけてきました。今まで毎日かかさずに歯みがきをし、大人のものと共有しないようにがんばってきたので、すごくショックです。今後、むし歯菌や歯周病になるんじゃないかと不安ですし、飲みかけのペットボトルを置いていた自分が憎くて、本当に悔しいです。1回のことでもむし歯はうつってしまうのでしょうか?

回答者: 井上美津子先生

 むし歯は、口の中の細菌(ミュータンス菌などのむし歯菌)によって引き起こされる病気なので、一種の細菌感染症です。ただし、むし歯菌が子どもの口の中に入ってきたら、すぐにむし歯ができる(発症する)わけではありません。

 通常の細菌感染症は、原因菌の感染が起こると(かつ抵抗力が弱いと)発症しやすいものですが、むし歯は「細菌感染症」と「生活習慣病」の両方の要素を持った病気です。すなわち、大人の口の中のむし歯菌が子どもの口の中にうつる(伝播する)ことがむし歯の発症に直結するわけではなく、その後の子どもの生活習慣やそれによる口の中の状態がむし歯の発症を左右することになります。

 乳歯が生えて、砂糖を摂取するようになると、むし歯菌が歯の表面にすみ着く(定着する)条件がそろいます。むし歯菌によって唾液で洗い流されにくい歯垢が歯に付着し、歯みがきが不十分で歯垢が歯に付着したままですと、歯垢の中のむし歯菌が食べ物の糖分を分解して酸を作り、その酸によって歯の表面からカルシウムなどのミネラル成分が溶け出します。唾液の働きなどで酸が解消されると、溶出したミネラル成分は再吸着されますが、頻回の糖分摂取があると、ミネラル成分の溶出が持続してむし歯が発症します。このようにむし歯の発症には、食生活習慣や歯みがき習慣などの生活習慣の関与が大きいものです。

 お母さんの飲みかけのペットボトルからお子さんが飲み物を直接飲んでしまうことで、むし歯菌が伝播するリスクがまったくないとは言えませんが、お子さんの食生活や歯みがきに気をつけていれば、むし歯菌が定着するリスクは少なく、むし歯は十分に予防できます。また、一緒に生活する人たちの口の中にむし歯菌が少なければ、むし歯菌が伝播・定着するリスクも少ないことがわかっています。親をはじめとした周囲の人たちが、むし歯をきちんと治療しておくことや、しっかり歯みがきをして、歯垢(歯垢の中のむし歯菌)を減らしておくことも重要と思われます。

 増齢とともに、子どもの口の中にもその子なりの口腔細菌叢(口腔細菌の構成状況)が形成されていき、3~4歳を過ぎると細菌叢がほぼ確立するともいわれています。細菌叢が確立する前の方が伝播したむし歯菌が定着しやすいことを考慮すると、低年齢ほどむし歯菌の伝播のコントロールが重要と考えられます。

 お子さんのむし歯予防や口の健康を考えたとき、幼児期前半まではむし歯菌の伝播・定着を抑制することにウエイトをおいてもよろしいかと思いますが、幼児期後半から学齢期になると子どもの行動範囲が広がり、外で友だちと一緒に行動することが増えてきて、むし歯菌の伝播を抑制する対応も難しくなることが予測されます。幼児期後半以降は、子どもの生活習慣をコントロールすることに移行していき、食生活習慣(食生活の規律性や糖分の多い飲食物のコントロール)や歯みがき習慣(子ども自身の歯みがきと親の仕上げみがき)を確立していくことに重点を置いていった方がよいかと思われます。よりよい生活習慣の確立は、歯・口の健康ばかりでなく、全身の健康にもつながります。