歯とお口のケア
Q. 生後11か月。転倒して乳歯がグラグラしています (2024.12)
- (妊娠週数・月齢)11か月
生後11か月の子どもがいます。1か月前につかまり立ちをして顔から転倒し、上の前歯2本がグラグラになってしまいました。転んだときは言われなかったのですが、昨日、歯科医院でレントゲンを撮った後「1本は根本で炎症を起こしているかもしれないから、抜く可能性がある」と言われました。現在、歯は2本とも軽くグラついている感じです。抜かない方法はないのでしょうか。1歳前での抜歯は不安ですし、後悔しています。
回答者: 井上美津子先生
生後11か月ごろですと、乳歯の前歯が上下2本ずつ生えているか、その脇の前歯が生え始めている時期でしょうね。通常、グラグラになった歯(脱臼歯)は、できるだけ安静にして歯根周囲の骨(歯槽骨)や歯と骨をつないでいる組織(歯根膜)の回復を待ちます。両脇の歯がしっかり生えていてグラつきがなければ、接着性の材料でつなげて固定し、安静を図りやすくもできますが、この時期はそのような処置も困難なため、様子を見るということになるでしょうね。
離乳食では、まだ硬い食べ物を食べることはないと思いますが、玩具を噛んだり、指をしゃぶったりするのをやめさせるのも難しい時期です。レントゲン(エックス線)写真で歯科医師から「根本で炎症を起こしているかもしれないから、抜く可能性がある」と言われたのは、その歯の周囲の骨が吸収してきているからかと思われますが、上の2本の歯のグラグラの度合いがそれほど変わらなければ、もう少し様子を見てもよいかもしれません。
ただし、いま以上にグラグラがひどくなったり、歯肉の炎症がひどくなったら、抜歯もやむを得ないかと思います。グラグラの歯を抜くのは、局所麻酔だけがまんしてもらえば、あとは痛みもなく、容易に抜歯できますので、お子さんへの負担は少ないと思われます。
外傷でグラグラになった歯(脱臼歯)への対応としては、できれば固定して安静を図り、硬い食べ物を避けたり、指で触らないようにして、口腔清掃などにより感染を予防し、歯槽骨や歯根膜の治癒を待ちます。ただ、低年齢児ではこれらの対応もなかなか難しく、とくに1歳未満で両脇の歯がない、または生えかけですと固定もできません。グラグラのままで安静が図れないと、傷の治りが遅れたり、感染のリスクも高くなります。11か月児の上の乳前歯ですと、まだ歯根も完成していないと思われ、よりグラつきやすいかもしれません。お子さんの治癒力に期待して、もう少し経過観察してもよいとは思いますが、抜歯の可能性があることも覚悟しておきましょう。
「つかまり立ち」から「よちよち歩き」の時期の歯の外傷は、いくら気をつけて見守っていても、避けることが難しい事故です。とくに0~2歳児は体長に比べて頭部の割合が大きいので、顔面から転倒しやすく、乳歯の外傷が生じやすいといわれています。1~2歳を過ぎたら、転びそうになったら手をつくなどの対応を教えていくこともできますが、1歳未満ではやむを得なかったかと思われます。
乳歯がめり込む(陥入・埋入する)よりは、グラグラになる(脱臼)ほうが永久歯への影響が少ないと考えられていますが、経過観察が必要です。抜歯するかどうかにかかわらず、上の永久前歯が生えてくる6~7歳ごろまでは、最低年2回は歯科医院で定期検査を受けて、受傷した乳歯の状態や歯並び・噛み合わせの状態などをチェックしてもらいましょう。乳歯の歯根の状態や永久歯の発育具合なども年1~2回はエックス線写真で見てもらうとよいと思います。
もし抜歯した場合は、乳歯がほぼ生え揃い、子どもの協力性が得られるようになったら(2歳半から3歳ごろが目安になります)、義歯(可撤保隙装置)の相談もしていくとよいでしょう。発音などの機能面での回復や審美面での回復が図れます。自意識が出てくると、子ども自身も義歯を希望することが少なくありません。