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ホーム連載・読み物インタビューシリーズ 第1回 大日向雅美さん

インタビューシリーズ:親も子もトライ&エラー

日々、親ごさんと接しているかたや、子育て奮闘中のかたにお話を伺っていきます。

シリーズ第1回
10人の赤ちゃんがいたら、10とおりの子育て
だからトライ&エラー

大日向雅美さん

大日向雅美さん
プロフィール
恵泉女学園大学・大学院教授
子育てひろば あい・ぽーと
施設長

これまでずっと、子育て中のお母さん、お父さんを励まし、支援者をも力づけてこられた大日向雅美さん。子育てひろば「あい・ぽーと」でも日々、子育て支援に取り組んでいます。
子育てしていくうえで、どんなことに目を向けていけばよいのか、親子のかかわりや、家族、周囲とのかかわりについてお話をうかがいました。

Part1 子育てはトライ&エラー
Part2 親も、子も、友だちは自然にできるもの
Part3 失敗談をいっぱい語ってほしい

Part 2 2007年4月12日掲載

親も、子も、
友だちは自然にできるもの

編集部 子育て中は、自分自身の時間を思うようにとれないだけに、孤独感を感じるかたも多いようです。その一方で、ママ同士のおつき合いに疲れる、という声も聞かれます。

大日向 お友だちは、自然にできるものではないかしら。子どもができると、むしろ、地域のなかに、声をかけてくれる方が増えませんか? 私の場合、子どもが生まれたら、ご近所のかたが声をかけてくれて、地域のかたとのごあいさつ関係が広がりました。

編集部 むしろ、子どもが生まれてからのほうが世界が広がる?

大日向 保育園のときも子どもを預けあう友人が何人かできて、とて助かりました。ただ、その関係はお互いに子どもを預けあうためのおつきあいで、それ以上、深入りすることはなく、すっきりしていました。

編集部 はい。一方で、子どものために親も友好関係を広げなくてはいけないのではと、プレッシャーを感じている人もいます。

大日向 そうですね。でも、無理しておつき合いをしても、どこかで線を引かないと、おつき合いが楽しくなくなるのではないかしら。私たちは、他人のために暮らしているのではなくて、自分のいちばん快適な生活を考えて暮らしているんです。もちろん、自己中心的で他の人を排除することになってはいけませんが、我慢しながら暗い顔して子どものためにおつき合いをするというのは、本末転倒だと思います。

言ってはいけないセリフ
「友だちできた?」

編集部 社会全体に、「友だちが多いのがいいこと」というムードがあって、親たちのプレッシャーになっている気がします。

大日向 そのことが、いじめの温床になる場合もあると思いますね。それは裏返せば、友だちがいない子はみじめ・・・ということになってしまう。

そうなると、子どもは仲間はずれにされても、いじめられても、親に言えなくなってしまいます。なぜなら、子どもは親の期待を、いちばん敏感に感じているからなんです。先生に叱られたとか、友だちから仲間はずれにされたとか、それだけでも子どもはものすごくつらいのに、もっとつらいのは、親の期待を裏切ってしまうと思うことなんです。友だちがたくさんできて元気に遊ぶ子がよい子だと、ママやパパが思っていることを、子どもは敏感に感じている。

きょう一日、友だちが誰もいなかったなんて言ったら、お母さん・お父さんから、自分の性格が悪いと思われるんじゃないかと不安になる。子どもって、本当にけなげに悩んでいるんですね。

編集部 そうですね。

大日向 いちばんやってはいけないのは、子どもが幼稚園や小学校から帰ってきたときに、「友だち、いっぱいできた?」と聞くこと。余計なお世話だと私、思います。そんなこと聞かなくても、本当に友だちができて楽しかったら、「きょう、○子ちゃんと遊んだよ」と、自分から言うんです。言わないということは、聞いてほしくないわけだから、聞いてはダメ。
私など、友だちは一人でもいればいいと思っています。

編集部 「友だち100人できるかな?」という歌がありますが、人数を気にすることもない。

大日向 友だち100人いる親って、いるかしら?

編集部 いないですね。

子どもにとって
いちばんの友だちは、家族

編集部 子どもにとって必要な友だちは、いちばん身近な親だったりということも?

大日向 いちばんは家族だと思います。親だったり、おばあちゃまやおじいちゃまだったり、きょうだいだったり。何があっても、心許せる人、批判しないで受けとめてくれる人がいることは、ぜったいに必要ですね。子どもにとっては親であったり、親にとっては夫や妻であったりと、誰でもいいんですけど。

私たちは外にいると、いつも評価と批判にさらされているでしょう? 家に帰ってまで、批判・評価されたら、子どもはいったいどこで生きたらいいのかしら。大人も同じ。会社で人事がうまくいかないことや、成果が上がらないことはよくあることなのに、家で「なぜ同期のあの方は課長さんなのに、あなたはまだ係長なの?」なんて言われたら、家に帰りたくなくなりますよね。

たとえ失敗しても、外で辛い目にあっても、まず無批判に受けとめてくれる相手がいることが大事ですね。それが、子どもにとっては親ですが、ママにとっては、誰だったらいいかしら。子育て失敗した、なんて批判せずに、「がんばっているね」と言ってくれるパートナーが必要でしょうね。

「何があっても守るよ」
というメッセージを

編集部 「いじめ」という社会現象があるがために、「みんな仲よく」「協調性を!」という大合唱が起こり、それがまたプレッシャーになる・・・そんな悪循環もあるように思います。

大日向 そうですね。これはとても残念なことですが、人が集まるところは、程度や形は違っても、いじめのようなものはつきまとうものではないでしょうか。いじめや悪口、批判がまったくない人間関係ってあるかしら、と思うんです。もちろん、ぜったいに、いじめてはいけないとは思うんですよ。でも、そのつもりがなくても、相手に疎外感を与えてしまったり、つらい思いをさせてしまうことは皆無ではありません。

人間って、ある程度、そういうものを乗り越えながら、生きていく力をつけていくのではないかしら。そのためにも、こころの体力をつけていくことが必要だと思います。

編集部 どうすれば、こころの体力がつくのでしょう。

大日向 外の人間関係で苦しい思いをしている人、とくに子どもに対して必要なのは、「がんばれ!」という言葉ではありません。外でいじめられたとか、お友達とうまくつきあえないと親に言うのは、子どもにとっては最大限のSOSなんです。それに対して「だらしない」「がんばってこい」「あなたが弱いからいじめられるのよ」と激励することばは、禁句です。

がんばれないからつらいのに、がんばれなんて、ありえないでしょう? どんなにいじめられても、「あなたは悪くない」「どんなことがあっても守りますよ」というメッセージを、家族が発することなんですね。

これもトライ&エラーなんです。友だち関係で失敗してもいいと、言ってあげてほしい。

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