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ホーム連載・読み物インタビューシリーズ 第1回 大日向雅美さん

インタビューシリーズ:親も子もトライ&エラー

日々、親ごさんと接しているかたや、子育て奮闘中のかたにお話を伺っていきます。

シリーズ第1回
10人の赤ちゃんがいたら、10とおりの子育て
だからトライ&エラー

大日向雅美さん

大日向雅美さん
プロフィール
恵泉女学園大学・大学院教授
子育てひろば あい・ぽーと
施設長

これまでずっと、子育て中のお母さん、お父さんを励まし、支援者をも力づけてこられた大日向雅美さん。子育てひろば「あい・ぽーと」でも日々、子育て支援に取り組んでいます。
子育てしていくうえで、どんなことに目を向けていけばよいのか、親子のかかわりや、家族、周囲とのかかわりについてお話をうかがいました。

Part1 子育てはトライ&エラー
Part2 親も、子も、友だちは自然にできるもの
Part3 失敗談をいっぱい語ってほしい

Part 3 2007年4月18日掲載

失敗談を
いっぱい語ってほしい

大日向 協調性も大事ですが、でも実は、子どもって、気をつかいながら必死に生きているんですね。子どもは決して天真爛漫なだけの存在ではありません。

親が思っている以上に、子どもは気をつかっています。たとえば、長女が小学5年生くらいのとき、お友だちのことで「まったく!」と、プンプン怒っていたんですね。でも、ちょうどそのお友だちから電話があって、なんて答えるのかと思って聞いていたら、とても明るい声で「はい、わかった。○○ちゃんがそう言うなら、そうするわ、よろしくね」と(笑)。

編集部 ちゃんと使い分けているんですね(笑) 親が知らないところで、子どもは、しっかりやっていくし、乗り越えていく。

大日向 乗り越えていくと思いますね、弱い子は弱い子なりに。次女がいじめにあったこともありましたが、相手のお嬢さんと、ひょんなことから親友みたいになって。友だち関係って、日めくりカレンダーのように、変わるんだなと思います。つらい時間があったようですが、それなりに、子どもは生きていくんですね。もちろん、「何があっても、味方になるからね」と言い続けていましたが。

成長した2人の娘を見ていて思うのは、子どもを長い目で見守ることが大切だということです。

編集部 それが、なかなか難しい(笑)

大日向 お母さんたちは、いま友だちができない、いまいじめにあっていると、この子の一生は終わりと思ってしまう。かわいさあまって、どうしても近視眼的に心配してしまいがちですが、子どもはそんな簡単に自分の人生をあきらめてはいません。あきらめさせてはだめ。

そのためにも、親は自分の失敗談を話してあげて欲しいと思います。「ママは友だちいっぱいいたのよ」とか「パパはヒーローだったのよ」なんて、仮にそうだったとしても言わないで(笑)。むしろ、先生に叱られたとか、友だちとけんかして仲間はずれにされたとか、そういうことをたくさん話し続けてあげると、子どもってすごく安心すると思います。「お父さん、お母さんもそうなの?」だったら、僕も、私も、何かつらいことがあっても、負けずに生きていける、と。

編集部 安心しますね、きっと。

大日向 受験でも、娘たちには、失敗しても、いつでも修復できるからと、言い続けてきました。私自身が中学受験に失敗した話や、夫が大学受験で浪人した話をたくさんしました。

他の人の視点に
気づかされることも

大日向 いろんな人の見方を知ることも、参考になりますね。あるお母さんは、1か月間の出張から帰ってきた夫から、お子さんのことを「ずいぶん成長したね!」と言われて、安心したそうです。いつも一緒にいるお母さんからは見えにくい子どもの成長が、しばらく留守にしていらしたお父さんには見えたんですね。

私も夫の視点にすごく救われました。長女が言うことをきかなくて私がイライラしていると、夫が、「この子の『いや』と言うふくれた顔が魅力的だよ。きっとすごい美人になるよ」と言うんです。そう言われると、おかしくなって、イライラも消えました。結局、夫の予想はあたりませんでしたが(笑)。一方、次女は3月生まれで、友だちと比べて何かと遅れて見える時期がありましたが、夫が「この子は、とっても楽しみな芽を持っていると僕は思うよ」と言い続けてくれて。ずいぶん助けられましたね。

編集部 そういえば、うちの長女も、親の目からは強情な面しか見えなかったのに、ご近所のかたから「自分を持っている証拠、将来が楽しみよ」と。そういう見方もあるんだと、驚き、励まされました。

子育ては、一生もの
どんどん、深くなる

大日向 私も夫も、世間並みにいい親といえるかどうかは自信はありませんでしたが、精一杯娘たちのことを愛しました。子育ても楽しかったですね。娘たちのことを思う気持ちは、時とともに深まっていくように思います。一緒に重ねてきた時間の重みでしょうか。
ですから、お母さまたちに申し上げたいのは、「子育てって、一生ものですよ」ということです。

編集部 どういう意味ですか?

大日向 幼い頃は、手がかかるがゆえのかわいさがありますが、小学校、中学校と月日を重ねると、それだけ、またいとおしさが増すものです。今、長女は31歳、次女は23歳ですが、娘たちを思う思いは、小さい頃の何倍も深まったと思いますね。そういう存在を与えられたことは、本当に幸せです。こんなにいとおしいものが、世の中にあるのかと。子離れできていないんでしょうか(笑)

編集部 しなくてはいけませんか?(笑) 

大日向 私は一生密着するつもりでいます(笑)。でも、娘たちのほうが離れていってくれたので。今は、精神的な密着ですね。

大人の居場所を
そして、多様な生き方を

編集部 大日向先生はご著書のなかで、「お母さんたちに、大人の居場所がない」と書かれていますね。
「『子育て支援が親をダメにする』なんて言わせない」

大日向 ここ「あい・ぽーと」では、お母さまがたに、大人の時間と空間を楽しんでいただきたいと願っているんですよ。日本社会では「ひとたび母親となった女性は、いつでも、どこでも、「ママ」という存在としてしかみられなくなってしまいます。これは日本の女性観の問題でしょうね。でも、それでは子育てはできないと思います。

私も、母親であるとともに、研究職であり、妻でありーーーと、いろいろな自分を認めてもらえたから、なんとか子育てをしてこられたんだと思います。それが、いつでもどこでも、よき母であらねばならないと決めつけられたとしたら、とても苦しんだでしょうね。

編集部 自分でも無意識に、よき母であらねばならないと思い込んで、息苦しさを感じてしまう場合もありますね。

大日向 人間って多様な生き方をしていてはじめて、子どものことをはじめとして、日々起こるいろんなこと、たとえそれが思い通りにならないことであっても、おおらかに受け入れていくことができるのではないでしょうか。例えば外で仕事をしていると、家の中の小さなことが小さいままに見えるでしょ? 家にいて夫のことや子どものことに夢中になっていても、いったん外に出かけて仕事をしてくると、きれいに忘れる。ここでも忘却は大事ですね(笑)

朝した夫婦げんかも仕事に出れば忘れてしまえるけれど、ずっと家にと閉じこもっていると、一日中抱えこんでしまったり、しませんか。

編集部 抱え込まないほうがいいですね。

大日向 スローライフとスリムライフは、まさに子育てだと思います。スローペースでゆっくり見守り、スリムライフで忘却する。自分にとって何が大事かよく見極めて、瑣末な出来事も自分の過去の栄華も忘れることですね。

編集部 栄華ではなく、失敗談を話してあげるんですね。

大日向 そう。過去の栄華も自分で語ってしまうと、あまり美しくないですもの。むしろ、親は正直に、ダメなところを子どもに語ってあげてください。親がダメだと、子どもがしっかりします。

編集部 「お母さんたら、まったくもう」と言われるくらいで、ちょうどいいかもしれませんね。
ありがとうございました。

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